一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→映画鑑賞・『イオとブリュノーとマスタング』

 気がつくと、私は映画館にいた。
 スクリーンには題名も話のジャンルも何もわからないフィルムが回っている。ストーリーがどこまで進んでいるのかさえ、皆目見当がつかない。
 少し鑑賞するうちに、駆ける馬のエンブレムのオープンカ―で旅する2人の男のロードムービーらしいと推測した。
 砂漠のような荒野に延びる真っ直ぐな1本道をただひたすらに進むのは、終始くわえタバコで運転する中年のブリュノーと、女装の少年イオ。二人の関係性は謎だ。
 こんな会話があった。
「なぁ、イオ? お前いつまでそのカッコ続けるつもりだ?」
「この旅の果まで」
「じゃあ一生そのままだな」
 なるほど、イオの女装は何か理由があり、彼らの旅は目的を失った状態のようだ。
 イオは繊細な顔立ちをしている。おそらくは10代後半。レースやフリルを併せた服を着ているが化粧はしていない。言葉少なげな様子から内向的な性格が知れる。
 一方のブリュノーは飄々とした人物で、窓に肘を置いて片手運転する、如何にもロードムービー向けのキャラクターだ。
 立ち寄ったダイナーで、イオは常連客に女装を揶揄われる。少年は何も言い返さず、黙って耐えている。
 彼の沈黙を良いことに増長する嘲笑。そこに席を外していたブリュノーが合流する。
 彼は無法者たちに訊ねた。
「随分と酒が進んでるな。いい肴でもあったのか?」
「怒るなよ、兄さん。アンタの連れ合い、この辺りじゃ珍しい格好だってだけの雑談だ。そういう話で酒は進むもんだろ?」
「あぁ、そうだな」とブリュノー。
 しばらくして店を出る際、彼は常連客たちに顎をしゃくり店主に言った。
「俺たちの飯代くらいの話の種になってやっただろうよ」
 呆気にとられる一同を残して、2人は店を出ていった。

 再びオープンカーの2人。紫煙の帯を引きながら、運転するブリュノーの横でイオが立ち上がった。
 両手を大きく広げて向かい来る風を受ける。彼のゆったりした袖が鳥の羽のようにはためいた。
「頼むから、鳥のように飛んでいきたいとかバカ言うなよ」
 その軽口にイオはポツリと呟いた。
「逃げるの嫌い。嫌な気分を吹き飛ばしてるだけ」
 肩を竦めるブリュノー。
「そういう強さはもっと表に出してイイもんだぜ?」
 
 ここまで観ても、全く何もわからない映画だ。エンドロールが始まる様子はない。もう少し鑑賞を続けてみよう。

テーマ; 鳥のように

8/21/2024, 10:26:38 PM