お題:ミッドナイト
「ここの道、出るらしいよ。」
助手席の彼女は呟くように言う。
時刻は夜の11:50。
遊園地ではしゃぎすぎてついつい閉園まで遊び尽くした帰り道だった。
「ちょうど0時。一台のバイクが追い越していくんだって。」
「バイク?」
「うん。それでそのバイクに乗ってる人はね。」
首がないんだって。
そう言うと、口の端を吊り上げた。
「僕が怖い話苦手なの知ってて言ってるでしょ。」
まったく。
悪戯を楽しむように笑う彼女を横目で見る。
さっきまでは疲れて仮眠をとってたので、少し元気そうなのは嬉しかった。
今の話もきっと長時間運転してる僕が眠くならないように話してくれたんだろう。
なんだかんだで優しいんだよなぁ。
……そういうことだよね?
「それでね、そのバイクちょうど0時に見られるから巷ではこう呼ばれてるらしいの。」
ミッドナイト・ライダーって。
呟く彼女を横目で見ると意地の悪い笑みが顔いっぱいに広がっていた。
そして僕の顔をみると、体をくの字に曲げてくつくつと笑い始めたのだった。
「そんなのでないって。そんなのでない。」
運転に集中する。
二車線の道路は閑散として、僕の車のヘッドライトだけが夜道を照らしていた。
時計を見ると11:57。
0時まで後少し……。
「出るわけない。そもそもどこの地点とかで出るわけでもないのにピンポイントで来るわけない。」
出ない。出ない。出ない。
ひたすら考えていたその時だった。
バックミラーに光が反射する。
その光は……ライト一つ分だった。
思わずブレーキを踏む。
減速した僕の車に構わず、そのバイクは僕の車の横を通り抜け……
そのまま走り去って行った。
「ふぅ……。」
のろのろと走る車の中で思い出す。
あのライダーが僕の車を追い越す時、その時の頭は。
あった。
普通の、実在する人だった。
もう一度ため息をついて彼女を見ると、ついに堪えられなくなったのか大声で笑い始める。
無気力に前を向く僕の視線の先では先ほどのバイクが米粒ほどの大きさになり、次第に消えて行った。
……まあよかった。
出会わなくて。本当に。
アクセルを入れると車がゆっくり加速する。
車が元のスピードに戻るくらいまでずっと、彼女は笑っていたのだった。
1/26/2023, 2:46:15 PM