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 親族に不幸があって急遽大阪に帰ることになり、のぞみに飛び乗った。東京駅は帰宅ラッシュで、人混みのなかホームに駆け上がるとちょうど発車のチャイムが鳴っていた。「ギリギリセーフ」自由席の車内に駆け込むと奇跡的に入って左側の2席がさらで空いていた。隣の席に荷物を置いて席に座るとどっと疲れが出て、2,3度深呼吸をしてお茶を飲んでやっと息が整った。のぞみは東京の町並みの間をすり抜けるようにして進んでゆく。夕陽もビルの壁や窓に反射して、街ゆく人に「今日もおわりだよ、おつかれさま」と暖かいねぎらいをかけているようだ。新横浜を過ぎてしばらく経つとすっかり日も暮れてしまった。夕飯の弁当も食べ終わってしまって、ここから新大阪までなにもすることがない。
 ふと夕闇に染まった車窓を眺めていると、今回亡くなった豊中のおばちゃんの思い出が心に去来した。お年玉をようさんくれたこと。伊丹空港に一緒に飛行機を見に行ったこと。甲子園に行ったら私が日射病で倒れててんやわんやになったこと。私をかわいがってくれたおばちゃんの笑顔が脳裏によみがえると、涙がほろりほろりとあふれてきた。窓の外には家々の灯りがまるで夜空の星くずのように散りばめられ、どれも滲んでいた。黒い袖で涙を拭い、お茶を飲むとすこし平静を取り戻せたが、私はほかの乗客に涙を隠すようにそれでもなお窓の外を見ていた。
 「みーんな泣いたりしてるんやろな」私はぽろりとつぶやいた。この闇夜に小さく光る家の灯りのひとつひとつに、それぞれの家庭があって人がいて、その人たちが泣いたり笑ったり恋をしたりドラマがあるんだと私は改めて思った。地球から見ればあまりにちっぽけだけど、何百光年も飛んで近づいてみればとてつもなく大きい。星と同じだ、と私は感じた。今夜はお通夜だ。私も煌々と光る星のひとつになる手伝いをしなければならない。そのためには今はひたすら眠ることだと私は座席のリクライニングを倒して目を閉じた。

2/29/2024, 11:15:43 AM