@何番煎じ

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『赤い糸』
突然だが、目に見えていないモノに縋りたくなるのは人間特有ではないだろうか。しかしながら、その見えないモノに縋る一人としては恥ずかしながらも人間らしくていいのではないかと思う。

よくいう赤い糸もその一つだが、私のこの小指には果たして繋がっているのだろうか。この歳になると現実にばかり目がいってしまいがちで夢というモノを見なくなっていた。そこで私は、あえて初心で今よりもずっと清い心を持っていたあの頃を思い出し赤い糸について考えを巡らせた。

好きな人がいたあの頃だ。

正直なところ、好きな人とは赤い糸なんて繋がっていないと思っていた。そんな簡単なモノではないというのが私の考えだからだ。若い子達には耳が痛くなるような話かも知れないが、そんな世の中甘くない。まず、好きな人と結ばれるだけでもなかなか難しい。更に付き合えたとしても上手くいくなんて保証はどこにもない。もっと言えば生涯を添い遂げるなんて到底できることではない。元はと言えば赤の他人なのだから。


ただ私は偶然が重なり、運よく好きな人と結ばれたのだ。どういう経緯でお付き合いに至ったか、その話はまた今度にしよう。

お付き合いが始まっても尚、私はこの方とは赤い糸は繋がっていないと感じていた。もちろん恋人のことは心から愛していたし、幸せにしたいと思いながら日々楽しく過ごしていた。

ある日突然、恋人に質問をされた。
「運命の赤い糸を知っている?」と。
私は「お国によって諸説あるようだけれど、生涯を添い遂げる運命の人と見えない赤い糸で結ばれているというやつかな。」と答えた。
すると恋人は「うん、とても素敵だよね。でも個人的には、目に見えないのだから一層の事見えるように自分たちで結んではいけないのかなって・・・」
確かにそうだな。と何故か納得していた。

そして恋人は、徐に赤い糸を取り出し私と恋人の小指を結びながら「どうせ元は見えず、誰にもわからないモノ。これで誰が見ても私たちは運命的な恋人。」と私の顔を見て微笑んだ。今でもその時のことは鮮明に覚えている。



色々考えている内にとても懐かしい記憶を思い出してしまった。
「何を考えていたの?」
私の隣であの頃と変わらない笑顔で生涯のパートナーが不思議そうにしている。

「いや、懐かしい思い出を振り返っていたんだよ。」と私は答える。

今は見えない、そこに確かにある赤い糸を見つめながら。

6/30/2024, 3:04:24 PM