「誰でもいいわけないでしょ、貴方だから。」
その言葉をまた、言えずに終わってしまった。
青白く、酷く薄い自分の身体が嫌いだ。
愛らしい顔に似合わない声も嫌いだ。
傷痕を上書きするようにつけた手首の線。
俺が俺だから、これを“女々しい”と呼ぶのだろう。
ズタボロの腕をなんの遠慮もなく鷲掴みにして欲をぶつける貴方が好き。
言えるわけないな。
異常、って言うんだって。こういうの。
でもきっと、お互い様なんだろうな。
日に日に濃くなっていく隈を見て胸が痛くなって目を背けるのは、俺だけじゃないから。
異常なのは、貴方も同じ。
思えば、どうしようもなく退屈で生産性のない人生を、消費するように生きてきた。
その穴を埋めるように、答え合わせをするように、自分という人間が居ることを確認するように、肌を重ねた。
始まりは惰性だった。全て。
どうでもいいから寝て、どうでもいいから食べて、どうでもいいから、“寝る”。
三大欲求のままに。人を変えて、場所を変えて。
それなのに何故だろう、不自由で変わり映えしない毎日だった。と、今となってはそう思う。
人は違うのに最期には寂しさと虚しさを抱えて眠りにつく。
身体の痛みと引き換えに、ほんの少しの愛情と、溺れるほどの金。
どうしようもなく、どうでもいい人生。
くだらなくて、愛しい人生。
そして、貴方に出逢ってしまった。
希望でも光でもない、俺以上に不安定な貴方。
見ているこっちが不安になるような寝顔が少しでも健やかになればいいのに。この先、目が覚めたときに少しでも目覚めてよかった、って思ってくれたらいいのに。
そして、そのとき隣に居るのは俺でありますように。
最近、そんなことばかり考えてしまう。これが所謂、“母性”ってやつだろうか。
貴方に触れようと伸ばした手は、思っていたよりもずっと重かった。
あぁ、駄目だ。瞼が持ち上がらない。腕ももう上がらない。
最期に一目、焼きつけて。
明日からも息ができるように。
貴方と一緒に、おちていく。
11/23/2023, 7:21:15 PM