今日のテーマ
《夏》
「あっつい……」
「暑いねえ」
青い空。白い雲。
照りつける太陽はジリジリと肌を灼き、茹だるような蒸し暑さは容赦なく体力を削いでいく。
道の先には陽炎がゆらゆら立ち上っていて、公園の花壇では向日葵さえも心なしかげんなりして見える。
ハンディ扇風機で僅かな涼を取りながらだらだら歩いてたわたし達は、少しでも暑さから逃れるべく、通り沿いのコンビニに避難した。
「ああー涼しいー」
「生き返るぅ」
冷房の涼しさに思わず声を上げると、近くにいたおばさんに笑われてしまった。
ちょっと恥ずかしくなったけど、外はそのくらい暑かったし、店内は本当に生き返る心地がするくらい涼しかったんだからしょうがない。
わたし達は更なる涼しさを求めるように、自然とアイスの売り場に足が向かう。
冷凍ケースの中、お馴染みの棒アイスへこれもまた自然に手が伸びた。
わたしが選んだのはみかん味のもので、相方が選んだのはいがぐり頭の少年がトレードマークのソーダ味。
水分だけじゃなくて塩分も補給しないとね、と、干し梅も一緒に手にしてレジに並ぶ。
本当は店内のイートインコーナーで食べたいところだけど、消費税の2%が惜しいから外で食べることにした。
入口の脇、日陰になってる庇のある場所で早速アイスを袋から出す。
「やっぱ夏はこれだよね」
「いや、こっちのが定番だろ」
「それはそう。でもわたしはみかんの方が好きなんだよね」
「オレ、梨も好き」
「そういえば今年はまだ見てないね」
そんな他愛ない話をしながらも食べる速度は落とさない。
この暑さじゃ、ゆっくり食べてたらあっという間に溶けてきてしまう。
と、突然隣で彼が眉間を押さえた。どうやら急いで食べてキーンときてしまったらしい。
わたしも気をつけなきゃと思いながら、少しだけ齧る分量を減らして調節する。
「もうすっかり夏だよね」
「まだ梅雨も明けてないけどな」
「でも暦の上では5月から夏じゃん」
「オレは8月が暦の上では秋だって言われてもぜってー認めねー」
「それな」
笑いながら言い交わし、一口ずつお互いのアイスを交換する。
つきあい始めて2度目の夏。
さすがに間接キスだの何だのと恥ずかしがるようなことはない。
まあ、つきあう前からお互いそういうことをあまり気にするタイプじゃなかったけど。
でも好きになったばかりの頃は妙に意識しちゃってたっけ。
平気な顔してジュースの回し飲みする彼に、好きなのはわたしだけかとがっかりしたのも今となってはいい思い出だ。
「どした? ぼーっとしてると溶けるぞ」
「うん……去年の今頃は、こんな風にアイス交換するのもドキドキしてたなあって」
そっちは全然平気そうだったけど。
そう言って茶化すと、彼もまたアイスを食べる手を止め、ふいっと顔を背ける。
何か気に触るようなことでも言ってしまっただろうか?
窺うように覗き込むと、暑さのせいばかりとも思えない赤い顔。
「平気なわけないだろ」
「え?」
「平気なふりしてただけ! 変なこと思い出させるから暑くなってきちゃったじゃんか」
そんなことを言いながら照れを誤魔化すように頬を擦る。
彼のそんな態度に、こっちまで照れが伝染したかのように顔が熱くなってきてしまう。
ドキドキ高鳴る胸に落ち着かない気分を味わいながら、わたし達はアイスを食べ終わるまで沈黙を守ることとなった。
アイスで涼を取ったはずなのに、食べる前と変わらないくらい――ううん、食べる前よりもずっと赤い顔をして。
6/28/2023, 1:45:19 PM