つぶて

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愛を叫ぶ。

いくよー、と遠くで君がボールを掲げる。
グラブを上げて答えると、君はいかにもといった動作で大きく振りかぶり、投球する。緩やかに弧を描いたボールは、パスっと音を立てて俺の左手に収まった。懐かしい感覚だ。右手に持ち替える。
ばっちこい、と君は声高らかに構える。その左肩やや上方に柔らかく返球する。仮に取り損なったとしても体に当たらないよう配慮したのだが、君は危なげなくキャッチし、もっと速くとせがんでくる。
キャッチボールの相手をしながら、真剣にボールを投げる君の実力を無意識に測っていた。
ボールを握ると、無性に全力投球してみたくなる。ブンッと真っ直ぐに飛んだボールが、パシンッと乾いた音を立てて相手のグラブに収まる、あの瞬間を味わいたい。
だが大人になった今は難しい。
君はキャッチできないかもしれない。速球が君を痛め、心まで傷つけるかもしれない。たとえ体に当たらないよう投げても、不慣れな君を傷つけない確信はない。
愛を叫ぶという行為は、たぶん全力投球に似ている。
練習がいる。距離感がいる。信頼がいる。いろんな条件をクリアして初めて受け止めてくれる人ができる。
のんびりとしたキャッチボールは思いのほか楽しかった。何より君が上機嫌に投げてくれるのが嬉しい。
今はこのペースでいい。焦ることはない。少しずつ、互いの信頼を育めばいい。
想いを全力投球する日を想像すると、ボールを握る手に力が籠った。大きく外れたボールはしかし、ポン、とグラブに収まった。ナイスキャッチと笑う君に、その日は案外遠くないのかもしれないなと思った。

5/11/2024, 7:05:31 PM