『……あれ?』
目が覚める。見慣れた白い天井。私の部屋だ。
それなのに違和感がある。
ムクリと起き上がり、部屋を見渡す。
物が散乱した机、子供の頃から使い古した棚、しっかり閉じた押し入れ。部屋のものは何も変わらない。
気のせいかな、と思い時間を確認しようとした時にやっと違和感の正体に気づく。
普段ある場所に時計がない。
向かい、逆側の壁にかけられている。
『逆さま……になってる。』
よく見てみれば窓の位置も、机の場所も全てあべこべになっていた。
上下までは入れ替わってはいないものの、配置だけ逆になっているとやはり違和感を感じるようだ。
誰がこんなことを……と思いつつ、とりあえず自分の部屋を出ることにした。
階段を降りて、居間の方へ足を運ぶ。
ガチャリと居間と廊下を繋げているドアを開けた瞬間、固まってしまった。
家具、間取り、全ての位置が私の部屋同様逆さまになっていた。
入ってすぐの右側にキッチンに繋がる通路があったはずなのに、左側にキッチンがある。
テレビの位置も向かいにあったソファーと入れ替わっているし、向かって若干左側にあったダイニングテーブルも今は右側にある。
自分の部屋だけでも奇妙なのに、居間までこうだとさすがに気味が悪い。
しかし、庭に繋がる大きな窓の位置は変わっていないところを見ると、無理なあべこべは無いようだ。
だとしても違和感は拭えないが。
「起きたの?」
聞きなれた声がして振り返る。
そこには見慣れた格好をした母がいる。
だが、何かがおかしい。
『あ、おはよう。お母さん、部屋どうしちゃったの。』
違和感を覚えつつも、母に話しかけると、その違和感は確信に変わっていく。
「部屋?何も変わらないでしょ、馬鹿なこと言わないでちょうだい。」
母は私を冷たくあしらい、キッチンに戻っていってしまった。
普段の母からは聞かない低めの声。
いつも優しく笑顔で答えてくれるはずなのに、無表情。
部屋の間取りとか家具の位置とか、そんなのどうでもよくなるくらい、一番の違和感だった。
いつも温厚で優しい母から “馬鹿” と言われたのが割とショックだったようで、ヨロヨロと朝食のあるテーブルに向かう。
朝は洋食が多いのに、今日は和食。
ご飯と味噌汁、お魚。
ここもあべこべなのか……と思い食べようとした時に、最悪の予想が頭をよぎる。
もしご飯もあべこべだとするならば。
母は料理上手で、美味しいご飯を作る。
でも今の母は全て逆さま。
という事は、このご飯……。
恐る恐る、ご飯を口に運ぶ。
美味い。
普通に炊きたてのご飯だった。
#逆さま
12/7/2023, 6:05:39 AM