もも

Open App

『閉ざされた日記』

ここに一冊の日記があるわ。
ある貴族の男が書いた鍵付きの日記。
不運にもこの日記を書いた男は日記の鍵を持ったまま事故にあって、急な崖下に落ちてしまったの。
だからこの日記の鍵はもう見つからない。
何でも日頃からこの日記にはとても重大な事が書いてあるから決して覗かないように、もし私に何かあったらこのまま燃やしてしまいなさい。
って言っていたそうよ。
残された家族はそう言われていたからどんな事が書いてあるのかとっても気になったのね。
遺産についてだ。とか、ある別の貴族の重大な秘密だ。とか、色々と憶測が飛び交って次第に皆それが本当の事だって重大な秘密を手に入れるのは自分なのだと争い始めてしまったの
鍵を壊せば済む話だ!ですって?
ええ。そうね。
だけどどれだけ頑丈な金槌で殴っても、どんな凄い鍵師が開けてみようともこの日記は絶対に開かなかったの。
だからこそ、本当に大事な事だって考えたのでしょう。
醜い争いは続いたわ。
それこそ最後の一人になるまで。
騙して、騙されて、最後に残ったのはこの家に長年勤めていた執事だった。
長い事勤めていたのだから亡くなった旦那様のものは頂いてもいいなんて考えて、やっと日記を手に入れた時。

不思議な事に日記の鍵はすんなりと開いてあんなに見たかった中が簡単に見れたわ。

日記には長年勤めていた旦那様の字で最初のページから最後から2番目までのページまでずっと家族、使用人、友人そして…長年勤めていた執事について感謝が述べられていたの。

執事は日記に書かれた事を読んで、あんなに厳しくて一言も感謝なんかしたことが無い旦那様がまさかこんなとこで感謝を述べていたなんてと、日記を抱えたまま涙を流してうなだれたわ
こんな事が書かれていたと皆に見せたいのに自分が全てを消してしまったからもうそれも出来ない。
ただ誰もいない屋敷に執事のむせび泣く声が響いただけ。

貴族の男はただ恥ずかしかったのね。
普段は感謝をすれば威厳が下がるなんて思っていたから、心やさしい自分は日記に閉じ込めたの。
こんな結末になってしまったのは
それを見抜けなかった屋敷の者のせいなのかしら?
それとも
素直になれなかった貴族の男のせいなのかしら?

1/18/2024, 11:05:47 AM