紫乙

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高校野球。
県大会、決勝の8回裏。
ツーアウト、1、3塁走者が帰ったら逆転の場面。

バッターボックスには、チーム1の瞬足で、今期4割超えの打者が入った。

チームのアイドルとも言えるムードメーカーの彼は、堂々とした様子で相手ピッチャーに構えた。

スタンドアルプス席は、最高の盛り上がり。
ワクワク、ドキドキが止まらない。
応援のボリュームも熱くなっているのがわかる。

今、どんな顔をして、どんな気持ちで構えているの?
逆光に照らされて、はっきりと見えない。首を伸ばし、踵を上げ、ジャンプして。その姿を焼き付けようとするけれど、うまく見えない。

その瞬間!
きゃぁー!太鼓が鳴り響く。
打った!え?どこ?打球を探す。

天高く吸い込まれるように、得点板の方へと入っていく。
まさかのホームラン!
願った逆転!
女生徒の黄色い声。
私も叫びたい。叫びたいけど、涙で声が出ない。
三塁ベースを踏んで、彼がホームへ戻って来る。

今やっと、誇らしげな彼の表情を捉える事が出来た。

昨夜、電話で、
明日必ずホームラン打つから、絶対見に来て!
と言ってくれた彼の声を重ねていた。

9回表で得点は入らず、試合終了。

優勝おめでとう!
甲子園でも、同じように大活躍してね。ずっと応援しているよ。

青春時代を野球に注いだ彼。
そのわずか3年間が終わりに近づいている。
そばで応援させてくれてありがとう。
私もあなたに出会えて、野球を好きになったよ。

校歌が球場に流れ、彼と初めて会話した日の事を思い出して涙した。

幸せって、こういう事かな。
自分以外の誰か大切な人の努力を応援させてもらえる事。

私をそばに置いてくれてありがとう。

1/24/2024, 3:01:41 PM