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お題「声が聞こえる」
※昨日のお題です

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満花が最初にこちらの世界に来たのは約十ヶ月前

大学進学と同時に始めた一人暮らし
その日は休日で、夕方からのバイトに行く為準備をしていた
ギリギリまで寝ていたせいで、慌ただしく狭い部屋内を走り回りボサボサの髪をどうにかしようと洗面所に向かった…その時

『…さ……れば』

男の子が囁くような声が聞こえた
「…え」
サッと血の気が引く
「…なに…?」
このアパートに男の子がいただろうか
確か近隣の部屋にはいないはずだ
いるとすれば、あまり会ったことのない離れた部屋にだろう
この部屋で声が聞こえるわけがない
…まさか聞こえてはいけない声が聞こえたのでは…?

『……あめ……い……』

「やだやだ無理ぃ」

怖い怖い
震える手で耳を塞いでも聞こえてくる
幽霊とか本気で無理だ
恐怖で泣けてきた

固く目を閉じた時、急に瞼越しに金色の眩しい光を感じ、反射的に目を開いた
足元からの刺すような光はよく見ると紋様を描いている
漫画やアニメで見たような魔法陣のようだった
徐々に目を開けていられないほどの強い光を放ち始め、また強く目を閉じた
暫くすると強烈な光は収まり、じんわり痛む目を恐る恐る開いた

「…え?え??」

今までこぢんまりとした見慣れた部屋にいたはずだ
だが目を開けば、もう使われていないような古びた礼拝堂のような場所に何故か変わっていた
もしかして本当はまだ寝ていて夢をみているのかもしれない
でもなんだろう…妙にリアルだ
心臓がバクバクと痛いくらいに早鐘を打って、上手く息が出来なくなる

「……かみさま?」
「…!」

あまりに動揺していて気付かなかったが、すぐ近くに十歳くらいの男の子が座り込んでいた
見た事ないくらいの整った顔に驚く
黒髪に大きなアーモンドアイ
瞳の色は射し込む陽光を取り込んで、キラキラと輝く美しい青色
創造主が丹精込めて作り上げたかのような形の良い鼻と口
それらすべてのパーツが完璧なバランスで配置された、現実離れした美少年だった
気品漂う容姿なのに、艶のない髪やうっすら汚れた肌、サイズの合っていない服が少し違和感だけれども…

「助けにきてくれたの…?」

声変わり前の高めの声が、あちこち穴の空いた建物内で涼やかに響く

(…ん?あれ?この声…)

少年の声に既視感を覚える
さっき部屋で途切れ途切れ聞こえてきた声に似ている

「…え…えと、ちが……私、神様とかじゃないよ」
「…違うの?」

少年の期待の籠った澄んだ眼差しが少し沈み、不思議そうに小首を傾げる姿になんとなく申し訳ない気持ちになった

「うん…ごめんね…?」

少年のことも何かと気になるが、満花も自分の事でいっぱいいっぱいだった
とにかく帰りたい

「あの…ここはどこか教えてくれる?」
「…?ここはラプム村の外れにある星屑の森だけど」

日本にそんな名前の村あるだろうか
いや、多分ない
嫌な予感がする
手が微かに震え出した

「…ね、ここって日本だよね?」

体は急激に冷えていくのにじっとりと気持ちの悪い汗が噴き出てきた

「ニホン?ってなに?」
「…なにって…国の名前でしょ?」

少年は口元に手を当てて数秒考えた後、納得したように呟いた

「…あぁ、お姉さんはニホンって国から来たんだね」

「ここも日本でしょう?」という言葉は何故か喉につっかえて出てこなかった
自分の心臓の音がうるさい

「ここはリュペリオン王国だよ」

リュペリオン王国…
聞いた事ない国の名前だ

「ねぇ、やっぱりお姉さん俺に応えてくれたんじゃないの?」
「え…いや、ちが「だって、俺の召喚魔法陣から出てきたでしょ?」

しょうかんまほうじん…?
満花は思考を放棄した
分かりたくなかった
今の状況に似たアニメを思い出してしまったのだ
女の子が異世界に召喚されてしまい、聖女として仲間達と魔王を倒す…みたいな異世界転移もののアニメ

「お姉さん、名前はなんていうの?」
「…え…なまえ?えと…満花、天宮満花」
「ミチカが名前?」
「うん…」

話しかけてくる少年を無視する訳にもいかないので、停止した頭を必死に動かして答えると、彼は花が綻ぶように笑った

「俺はルカ
よろしく、ミチカ」



これが、ルカとの出会いだった


9/24/2023, 4:59:43 AM