かたいなか

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最近最近のおはなしです。「ここ」ではない、どこか別の世界のおはなしです。
「世界線管理局」という厨二ちっくファンタジーな組織が、いろんな組織の調停役をしておりまして、
その管理局の中には、滅んだ世界の遺物を保管する、収蔵部もありました。

今回のお題回収役は、まさにこの収蔵部の局員。
ビジネスネームを、「ドワーフホト」といいます。

「よーし、総点検、終わりぃ!がんばったー!」
その日のドワーフホトは、自分の担当である収蔵庫ひとつを、6時間かけて大掃除、および総点検。
朝ごはんから、何も食べていません。
完全に、おなかがペコペコです。
「そろそろコンちゃん、来るかなぁ〜」

大きな仕事を成し遂げるにあたって、
収蔵部のドワーフホト、とっておきのご馳走を、たっぷり注文しておりました。
不思議な稲荷子狐が作る、稲荷のご利益たっぷりな、絶品お餅の■種類を■■個ずつ。合計■■個。
お惣菜お餅からスイーツお餅、変わり種なお酒のおつまみお餅まで、どっさり!

ドワーフホトは、美味しいものが大好きなので、
美味しい美味しい、素晴らしい子狐のお餅■■個を、たっぷり、注文したのでした。

「まいど、まいど!」
ほら。アレコレそうこうしている間に、
ガラガラガラ、がらがらがら!
車内販売用サービスワゴンのような手押し車を押して尻尾も振って、稲荷子狐が現れましたよ。
「おねーちゃん、おもち、ちゅーもん、ありがと」

ところでお餅も手押し車もキラキラ綺麗なのに、
コンコン子狐だけ妙に、何故か、随分、
土だらけというか泥まみれというか……ですね?

「わぁ!コンちゃん、どうしたのぉ」
「たのしかった」
「『たのしかった』。じゃなくてぇぇ」

餅売り子狐が言うことには、
ガラガラガラ、がらがらがら、
ドワーフホトの収蔵庫へ向かうとき、座標軸的な近道として、管理局内に存在する難民シェルターを通ってきたらしいのですが、
そこのサラサラ砂地とフカフカ泥土が、あんまり魅力的かつ気持ちよさそうで、
子狐は子狐の本能に従い、ゴロゴロ、ざぶざぶ!
土を掘ったり砂を浴びたり、それはそれは、もう、たいそう楽しく遊んだそうなのです。

「おねーちゃん、おもち、どうぞ!」
コンコン子狐、どろんこで茶色く湿った毛をそのまんまに、ドワーフホトにワゴンを差し出します。
「んんー、お餅の前に、コンちゃん、お風呂ぉ!」

せっかく綺麗に掃除した収蔵庫を、泥んこ足跡で汚されては、たまったものじゃありません!
ドワーフホトは子狐を、やさしく抱いて連れてって、じゃぶん、じゃぶん、しゃらしゃらら!
温かい37℃のお湯の中に、入れてしまいました。

しゃらしゃらら、しゃらしゃらら。
白百合のシャワーヘッドから落ちる優しい雨音は、子狐の泥も土も砂のすべても、
しゃらしゃらら、しゃらしゃらら。
全部ぜんぶ、温かく優しく、流し去ってゆきます。

「あったかい。あったかい」
お湯で泥んこを流してもらって、コンコン子狐は大満足。目も口も閉じて、気持ちよさそうです。
「そのまま、目を閉じててねぇ〜」

しゃぷしゃぷぷ、じゃぶじゃぶじゃぶ。
スズランのシャンプーディスペンサーから3プッシュ、温めたペット用シャンプーを泡立てて、
じゃぶじゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶじゃぶ。
ドワーフホトは子狐を、温かく白い泡まみれにして、まるで雲か子羊のようにしてしまって、
そして、またシャワーの雨音でもって、全部ぜんぶ、洗い流してゆきました。

「よぉし。あとは、ドライヤー」
「やだっ。おっきい音、やだ」
「じゃあタオルドライだぁ」

コンコン子狐は狐なので、大きい音は苦手です。
なのでドワーフホト、ふわふわ優しいタオルでもって、子狐の水滴を全ー部拭いて、
しゅっ、しゅっ。 しゅっ、しゅっ。
流さないトリートメント効果付き、子狐が大好きと言ったペット用稲荷イメージフレグランスを、
かわいらしいフォトンガラスの香水瓶から、
吹いてやって、コームでもって、毛並みも綺麗に整えてやったのでした。

しゅっ、しゅっ。 しゅっ、しゅっ。
香水瓶の霧雨は、優しい雨音となって、コンコン子狐の周囲を包み込んだのでした。
「いいにおい。いいにおい」
「よぉし。コンちゃんのお風呂、終〜わりぃ!」

さぁさぁ、稲荷子狐さん。ご利益ゆたかな美味しいお餅をくださいな。ドワーフホトが幸福に、にっこり、穏やかに笑います。
コンコン、おけしょーのおねーちゃん、ご利益ゆたかなキツネのおもち、どうぞ。子狐が尻尾を振って、お餅を詰めたワゴンを差し出します。
お題を払って、お茶を淹れて、フレグランスを優しく焚いてご褒美タイム。
コンコン子狐とドワーフホトは、もぐもぐ、ちゃむちゃむ、一緒に■■■個のお餅を分け合って、ちょっと遅くなったお昼ご飯を堪能しましたとさ。

5/26/2025, 3:00:20 AM