彗星

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あの子がまだ小学二年生の夏、私は娘を亡くした。

暑かった。
まだセミが鳴いてる頃で、風鈴が鳴ってた。

『一応捜査は進めているんですが、、どうしてもまだ…』
「…そうですか、」

娘は、事故として警察に判断された。
だけどその根拠となるものは一切見つからなかった。
娘がいつものように学校に向かう途中、車に跳ねられたように道路の真ん中に倒れ込んでいる姿で発見された。
朝は人が通らないような路だったから、警察に通報が入ったのは昼間だった。
「小さな女の子が倒れています!」
そう連絡をしたのは通りすがりの男性。
その頃にはもう娘の体は冷たかった。
けれどまだ、娘の身体中から血が溢れ出ていた。

私は、娘のランドセルが赤く染っていくのをただ見届けることしかできなかった。

近くの防犯カメラや発見者の男性、周りにある店の人に話を聞いたり見たりしても全てが水の泡で終わった。
『ニュースに取り上げられることを許可…ですか』
「はい。もう落ち着いてご飯も食べてられないんです。」
『ニュースに取り上げられたからと言って犯人がわかったりするとは決して言い切れないんですよ?大事になったり、もしかしたらお宅に報道関係者が訪れたりなんてことも…』
「別にいいんです。もう既に街中にポスターや貼り紙を貼って犯人を早く捕まえれるようにしているので」
『……分かりました。』

〈速報です。今月の22日に小学二年生の少女が原因不明の状態で死体で発見されました。警察は事故とみて捜査を進めております。〉
《やだ、原因不明だって、あんたも気をつけなきゃね》
《まあお気の毒に…原因不明で事故って一体なんなのかしら。 。》
〈そして、亡くなった娘さんのお母様に取材をさせていただきました。その様子がこちらです。〉

〈原因不明ということですが一体、、〉
「私も分かりません。わからないんです。車に跳ねられたのか、でも防犯カメラには何も映ってないし、、もう何がなんだか、、」
〈お気持ちお察し致します。お悔やみ申し上げます。〉
「ありがとうございます。この報道を通してより多くの方に知ってもらい、そして子供たちに注意喚起をどうか…」

《本当に辛いでしょうに、、大変ねえ》
《可哀想よね本当。。はやく解決しないかしら》
《お母さんはきっと立ち直れないわよね…》


4年後───

〈速報が入りました。20‪✕‬△年の○月22日、少女殺害事件について現在犯人が発覚したとのことです。〉



『何故こんなことをした!』
【……】
『応えろ!!何故こんな世間を巻き込んでまでお前はっ…!!!』
【……だって、】
「あの子が悪いんです!!!全部、全部……テストでは100点を取らないし、女手一つで育ててるのに余計なことしかしない!!私が殺して何が悪い!!!」
『お前…お前は、あの子が死んで悲しくないのか!!一人の若者の命を犠牲にしてまで自分を救いたいか!!世間を、全国民を荒らしたいか!!!』
「あんただって!!随分協力してくれたじゃない(笑)気づきもせずに、隣の犯人を置いて長いことお遊びの推理をしてたじゃない!それなのに今になって私を責めて何がしたいのよ!(笑)」
『……俺は、信じたかった。
俺は長いことこの職をしているが、原因不明でまるで事故のように少女が倒れてるのは初めてだった。
そりゃお前のことだって疑ったさ!何度も何度もな。
だが、お前が泣きながら寝る間も惜しんで街中にポスターを貼って、ニュースの取材1つも断らずに娘のいた頃の話をするのを1番近くで見て、信じたいと思った。』
「っ、、」
『誰が母親だと思う?誰が自分の娘を殺す?事故に見立てた原因不明の事件の犯人が、母親だと真っ先に疑う奴がどこにいる?あの涙はなんだ?お前の俺にみせた、あの子にみせた、全世界にみせた涙はなんだ??』
「信じたあんたが悪いんじゃな…」
『ああそうだ。だけど今こうしてお前がしたことが明らかになった。お遊びの推理も、捜査も、もうお終いだ』
「……」
『近くの店の防犯カメラを予め違うものに偽造したのも、わざと通行人が居ない道、時間帯を狙ったのも、泣いて同情を誘おうとニュースに取り上げられたのも、全てお前の作戦だな?』
「…ええ、」
『思惑通りだったよ。お前の手のひらで馬鹿みたいに転がされてた。だがもう芝居は終わりだ。』
「、、そうね」



〈犯人は、懲役12年の判決が下されました。〉

〈もう二度と、この事件を風化させてはいけません。〉
『もう二度と、この事件を風化させるなよ』




この時、あの頃と同じ、風鈴の音が聞こえた気がした。

3/24/2025, 8:17:41 PM