『Ring Ring…』
「ねえ徹叔父さん、昔は携帯が無かったでしょう?家の電話だけって不便だよね」
甥っ子が突然そう言ってきた。
確かに。でも、昔はそれが当たり前だったんだ。
まあ、聞けよ甥っ子。電話にまつわる叔父さんの話しを。
高校の同級生だった優子と駅で偶然会ったのは大学2年生の冬。近況報告の名目で何回か会う内に自然と付き合う流れになった。3回目のデートで、彼女の不用意な言葉から喧嘩になり雰囲気は最悪に。帰り際、彼女が「今日はごめん…。後で私から電話する。」
私から電話する。確かに彼女はそう言った。が、結局電話は来なかった。
甥っ子に、どうしてだと思う?と聞くと「え〜、そんなのわかんない〜」
だよな。自分も分からなかったもの。
事実を知ったのは随分経って、やっと出席出来た同窓会だった。
「徹、久しぶり」優子が声をかけてきた。
ああ…と曖昧な返事をすると、彼女があれからの話しをし始めた。
本当に何度も家に電話を掛けてくれたのだと言う。ある日やっと繋がった電話に若い女性が出たらしい。
「徹さんいらっしゃいますか?って言ったら、突然『そんな人いません!』って怒り口調で言われてね。驚いて電話を切ってしまって。
でもいつ帰って来るのかちゃんと聞かなきゃって、もう一度電話を掛けたの。
そうしたら『だからそんな人居ないって言ってんでしょ!!』って大声で怒鳴られて怖くて怖くてそれっきり…」
甥っ子が言う。「ねぇ、ちょっと待って。その女性ってもしかして僕のお母さん…?」
正解。昔から面倒見のいい姉貴は、可愛い弟に悪い虫でも付かないように思ったんだろう。
だから、あの時にもし携帯電話があったら、今頃彼女とどうなってたかなって思うんだ。
1/9/2025, 9:39:13 AM