目の前に大きな門がある。
錆びた鉄の格子状の門に、南京錠がかかっている。
傍らの門番所では、酒飲みの男が椅子に腰かけて眠っている。
男の目の前の机の上に、小さな銀の鍵が置いてあるのがみえた。
どうせいつか目覚めるだろうと思って、私は彼の起きるのを待つことにした。
門の先は霞みがかって暗く澱んでいる。
一人でこの先に行くのは心細いと感じた。
退屈な時間が流れる。
まだ起きないのだろうか。
いつ起きるのだろうか。
時は刻々と流れていく。
ふと顔を目をこらすと、門が少し錆びてきているのがわかった。
はじめの頃より随分と色褪せている。
私は不思議な焦燥感に駆られて、門番の男の元へ急いだ。
-あんた、早くその鍵であの門を開けてくれ。
男を叩き起してそう言うと、男は重たい瞼を擦りながら無愛想な顔で答えた。
-おかしな事を言うもんだ。この鍵もあの門もお前さんのなんだから、自分で開ければいいだろう。
-何を言う。ならば何故あんたはこんなとこにいるんだ。
-あんたが言ったんだ。小さい頃に。あの門は大人になったら開けるから、それまで無くさないよう見張っとけとさ。
-私にその覚えはない。そもそもこの鍵はなんなのだ。
-未来への鍵、だろ。あんたが言ったんだ。将来は大人になったら決めるって。将来は早く決めろって言ったのにさ。他人任せで後回しにするから、ほら、もうあんなに錆びちまった。
男は門の方を指さした。
大きな門は既に朽ち果て、鈍色の格子が墓石のように物寂しく地面に突き刺さっている。
私は慌てて駆け出した。
門の先は既に一寸先もみえぬほど暗く沈んでいる。
-だから言ったのに。
遠くから、そんな嘲りが聞こえた気がした。
1/10/2025, 3:57:55 PM