viola

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『愛と平和』

すぐ近くで銃声音が轟いている。
…なんてことはなくて、今日も窓の向こうにはつまらなくて酷く平穏な日常の風景が続いている。惰性で数学教師の安眠を誘う声を聴きつつぼんやりと何処までも続く空を眺めた。

_二年前、丁度こんな風に暖かな陽射しの落ちる中、海を隔てたうんと遠い国が軍事侵攻を始め、ものの一瞬で三分の一もの地域が武力によって堕とされた。画面の向こうでは自分と然程変わらない年頃の者たちが涙を流し必死に逃れようとしている映像が垂れ流されていて、そんな様子を自分は迫り来る時間に急かされながらご飯を掻き込んだ。

何処までいっても僕らには他人事だった。
漫画にありがちな主人公とやらは、いつだって観るものに希望を与える。まるで、自分たちこそが主役であるかのようによりリアルな非日常を味わわせてくれる。
彼らは言う、愛は世界を救うと。
なんて陳腐な言葉だ。でもこんな何処かで聞いたような台詞を意気揚々と宣っても、それすら涙を流し聞き惚れる者もいる。なんて不思議な世の中だろうか。
馬鹿げた世の中だ。

もし自分たちが彼らと同じように、ある日突然、自分たちの住む場所が大国によって進行され滅茶苦茶にされたのなら、そんなものを信じられるのだろうか。本当に愛は救ってくれるのか、全てを元通りにしてくれるのか。
愛なんて不確かなものにどうにかされる訳がない。
でも、誰かをいとしく思う思わなければ心を保っていられないこともまた事実。人は独りでなど生きられない。誰かに依存しながら生きていく。結局どっちが真実なのかわからないんだ。
でも本当は思うんだ。気障ったらしくて認めたくはないけれど、愛は凄い力なんじゃないのかと。だって皆が手を取り尊重し、互いを愛せば争いなんて生まれないのだから。
愛と平和はイコールなのだと。


そう窓の向こうをぼんやりと見つめ考えていたら、
後ろに迫った数学教師の鈴木に宿題を増やされた。

3/10/2023, 2:10:29 PM