Namimamo

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まだ見ぬ世界へ!

そう言って大海原へ旅立った友は、舟が沈んで死んだらしい。

同じようなことを言って空を飛ぼうとした知人は、呆気なく落ちて死んだ。

馬鹿だな、まだ見ぬ世界などという不確かなものに取り憑かれたからだ。
そう言って僕は今日も石を拾う。

家のすぐ裏手の山に転がる石。
仕事の合間にそれを拾っては磨くのが僕の日常だ。

そんなことをして何になるの、と周りには呆れられるが、磨く度になんてことない石の表面がツヤツヤと輝きを増す様からは、なんとも言えない満足感が得られるのだった。

ある夜のことだった。
磨きたての石を灯りに当てて眺めていた僕は、手を滑らせてそれを落としてしまった。

勢い良く床に落ちた石が音を立てて割れる。
ああ、と嘆こうとした声は、ああっ!!と驚きの声に変わった。

石の断面から、それは美しい青が現れたのだ。

まるで深い海のような、果てしない空のような青は僕の手の中で煌めいて、ずっと眺めていても飽きることがない。僕はその色にどうしようもなく魅了された。
ほら見ろ、海へ漕ぎ出さなくても、空へ羽ばたかなくても、まだ見ぬ世界はこんな身近なところに転がっている。
僕は興奮していた。
もっとこの石を拾わなくては。

確か山の崖の近くで拾ったものだ。あの辺りに行けば、また同じものが拾えるかもしれない。

翌日、僕は崖の際に転がる石を拾おうとしていた。斜めになった地面はどうにも足場が悪く、バランスを崩せば崖下へ真っ逆さまだ。慎重に、しかし今までより大胆にあの窪みにある石を拾いに行く。
あの美しい青を、もう一度手にしたい。いや、それだけじゃない。まだ見ぬ新たな美しい石をこの手に。さあ。

腕をぐっと伸ばした瞬間、体がぐらりと揺れた。

あっ、ヤバい。

はう思った時には足元の地面が消えた。
落ちる。ああ、落ちる。なんということだ。まだ見ぬ石を求めたばっかりに。

──ああそうか。
彼らも、こんな風に海へ、空へと足を踏み出したのだな。
ようやく理解して、僕の身体は石と共に砕けた。

6/27/2025, 11:07:57 AM