秘密の場所
仕事帰り、誰にも教えてない秘密の場所でコーヒーを飲むのが、私の日課だ。
好きなブラジルサントスを注文して、それを飲むのが楽しみ。程よくお客が居なくて、ゆっくり出来る。親しい友達にも、ここは教えない。いつものようにキャーキャーおしゃべりするような場所ではないからだ。
そこで、スマホをチェックしたり、窓の外を行き交う人を眺めたりして、小一時間過ごして帰路につく。
家が嫌なのではなく、ここで仕事とプライベートの切り替えをする習慣がついているから。
ある日、いつものようにそのお店に行って、いつものようにサントスをオーダーした。届いたコーヒーを口元に持って行った時だ、壁に小さな貼り紙がしてあるのに気づいた。
ん?近づいて見てみると『お客さまへ 長い間のご愛顧ありがとうございました。この度、店主の入院加療のため、この店を閉じることになりました。皆さまにはご迷惑をおかけしますが、どうぞご理解ください』最後に日付と、店主よりと書いてあった。
私は、その場に棒立ちになっていた。
「あー、さおりさん、毎日来てもらってるのにごめんね。この通りだから、もう無理なんだよ」
「残念です。ここに寄るのが仕事終わりの楽しみですから。でも、ご病気ですからしょうがないですね。しっかり治療を受けて、またお会い出来たら嬉しいです」
お店は月末に閉じるという。あと2週間程だ。帰り道の私は、足元がおぼつかなかった。自覚している以上にショックだったらしい。
仕事終わりのコーヒーは、来月からどこで飲もう?私の秘密の場所はどこになるだろう?これからあちこちのお店に寄ってみて、絞り込んでいかないと。見つかるのだろうか。
No.131
3/9/2025, 6:35:18 AM