いつも通りに起きたら、愛する人がいる。
愛する人の笑っている顔が見られる。
僕はそんな日常が気に入っていた。
ずっと続くと思っていた。
僕はみんなとは違う。
見えてはいけないものが見える。
お化けみたいなそれを、やっつけるのが僕の仕事だった。
ある日、愛する人が難病にかかった。
余命一ヶ月。
僕はそれがお化けのせいだと知っていたけど、言わなかった。
いえなかったんだ。
ある日彼女が、僕を呼び出した。
余命残り一日になった日だった。
彼女は思い詰めた顔をしていた。
寿命が尽きるのが怖いのかと思ったが、違った。
逃げて。
彼女はそう言い放った。
遅かった。
僕はそう思った。
彼女は、取り憑かれた霊に生気を吸われて死ぬのだと思った。
違う。
彼女は取り憑かれていた。
僕はすぐに彼女についていた霊を、死に物狂いでやっつけた。
でも、彼女の寿命はもう尽きていた。
このままだと彼女は1人彼岸に行くことになる。
そんなの嫌だ。
僕はそう思った。
僕は不思議な場所を知っている。
それは、大きな穴だ。
この穴に落ちたものは、生者でも死者でも、悲願送りになってしまう恐ろしい穴。
僕はそこに、彼女もろとも落っこちた。
なんとか口を開けた少女が言う。
死なないで。
大丈夫だよ、とぼくは微笑む。
きみを1人にはしない。
そう言って、僕らは真っ暗な穴の中に、落ちていった。
6/18/2024, 2:08:37 PM