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あーあ、やっちまった。どうすりゃあ良いのか。
足元に転がった「人形」を見下ろして、頭を抱える。 何だって親父はこんなものを買ったのか。いや、それよりもこんな精巧な「人形」をどこで見つけたのか。ちがう、今はそんなそとを考えている暇はない。ご丁寧に座らさせられていた「人形」にうっかり触れてしまい、それが倒れてしまったのだ。きれいに整えられていた髪は乱れ、服も歪んでしまっている。それがどうにも蠱惑的に見えて、目をそらす。
「うふふ、初心なのね」
そんな声が聞こえた気がした。ここには自分一人しか居ないというのに、小鳥の囀りような声が鼓膜を揺する。驚いて足元の「人形」を見下ろすと、目があった気がして急に恐ろしくなった。きっと親父に叱られるが、そんなことを気にかけている余裕はなかった。
急いで部屋から飛び出す。階段を上がり、自分の部屋へと逃げ込むと勉強机の上に出しっぱなしにしていたノートを開いた。そこには日々の記録が書き綴ってある。ペンを取り、紙面に覆いかぶさった。
しかし、言葉が出てこない。手が動かない。
アレは書き残してはならない、と本能が警告をする。うふふ、と鼓膜の奥で笑い声がした。

2/7/2024, 3:06:56 PM