望月

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《春爛漫》

 一度路地を抜ければ其処は——数多の欲が四季を狂わす、遊廓である。

 金と酒、女に快楽。
 それぞれの欲が入り交じった果ての如き、絢爛豪華な町並みは誰をも受け入れる。
 然れど、金のない者には何一つ手に入らぬ町である。
 金さえ積めば、病気を患った醜女から絶世の美女までもを侍らせることができる。
 遊廓において、金の力は偉大なのだ。
 見世に覗く瞳は艶美だが、易々とは触れられない。
 気量のいい娘が素養を併せ持って、花魁と呼ばれるまでになれば。
 夜と花との化身は街を巡りて華を咲かせ、人はそれを『花魁道中』と呼ぶ。
 一目で魅せるその様は、神秘の如く。
 往く人人を惑わす色香は、絶え間なく。
 春を再演する女のことを、花魁と、人は呼ぶ。
 夜も、昼と見紛う灯りに照らされて。
 また一人と、色を知り欲を喰らわせる花だ。

 然すれば其処は、欲の園。
 四季をも越えて狂い咲く、春爛漫の町。

「——ようこそ、おいでくんなまし」

 花が何時でも、欲を喰らって咲く町だ。

4/11/2024, 8:57:40 AM