Yushiki

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 あ──。転んだ。
 大丈夫かな。

 心配でしばらく眺めていると、絨毯の上に伏せていた小さな身体が、たどたどしく立ち上がった。

 良かった。泣いてない。
 むしろ、ちょっと笑顔だ。

 再び前へ前へと足を動かして、拙い歩きでこちらへとやって来る。
 私は今すぐ駆け寄りたい衝動をぐっと我慢した。

 私の視線の先で、我が子が真っ直ぐにこちらをじっと見つめている──、ような気がする。

 その丸い瞳には何が映っているのかしら。

 あなたの視線の先にママが入っていればいいな、なんて、そんな願望を抱きながら、大きく両手を広げたまま、小さな我が子の到着を待っている。



【視線の先には】

7/20/2023, 4:13:13 AM