終了のチャイムと空白の進路希望調査表。落描きが消された跡があるそれを折りたたんでファイルに入れる。提出期限はまだ遠いから大丈夫だ。
毎日を適当に生きてきたから将来なんて分からない。ただ好きなことをして、それを続けていくことができるならなんでもいい。
ホームルームの話も聞き流し、放課後に浮き足立つクラスメイトたちをよそにのろのろと帰り支度をしていると、いつもの2人が話しながら寄ってきた。
「将来の夢なんて無いわよ。強いて言うなら、お父様を超える経営者になることかしら」
「有明さんはれっきとしたお嬢様だもんね。将来が約束されてて羨ましいや」
もう進路の話は懲り懲りだ。無表情にしていたつもりが不機嫌が伝わってしまったらしく、そいつは肩を竦めた。
「僕らは大人になっても一緒に遊ぶんだよね。20歳になったらお酒とか持ち込んで、どっちかの家に集まってゲームするんだよ」
目を合わせて、笑いながら肩を組まれる。いつもは鉄仮面のような顔の有明さんも、呆れた顔で微笑んでいた。
「早く部室行こうよ。対戦やろう」
「負けたらジュースの奢りね。ほら、碓氷くんも早く用意して。置いていくわよ」
ずれた眼鏡と掻き混ぜられた髪の毛を直して、引き出しの中のものを急いで鞄に突っ込む。早く行かないとこの後が面倒だ。
大人になっても、このバカみたいに騒がしいこの時がずっと続けば良いのに。自分の将来の夢は、今のこの時間が終わらないことだ。
お題:20歳
1/11/2024, 7:27:38 AM