家屋の裏手に十坪ばかりの庭園がある。広くは見えぬがさっぱりと心地の良い茶畑であった。
水彩画にどうも興が乗らぬ折り、しばしば枯木の根を数えて旦那は、橋下の秋風に吹かれるススキの如く、意欲が蘇り湧き増すのを待ち呆けていた。
丁度今しがた旦那の座りこける辺りに、以前よりふてぶてしく寝そべる猫を見つけたのが己以外の猫族の見始めであろう。向かいの家を住み処としている純粋な白の猫であった。ぱきりと物静かに庭園を鳴り渡った足音に午睡から寝醒め、彼女は上品に瞼を持ち上げた。明瞭に、鮮やかに記憶している。己を射て見差す真丸の瞳は、人間がどうしてか妙に重宝する琥珀なんて物より一層清んで綺麗であった。
先の、いけ図々しくも私の情線へ響を与えた報道を己に知らせたのも、この白猫だ。
誰彼も残ること無く今日に至るまで、虚弱な旦那を一人残して、奴の身寄りは姿を見せなくなった。人間族の言葉でそれを、死んだというらしい。
我儘な奴の、孤独な背中が時折哀れで気の毒になる。旦那を構ってやれる連中はもう己しか居ないらしい。
しょうがないので私は、細かく皺の刻まれた、骨張った手を温めるように愛々しくすり寄ってやった。
Love you
2/23/2024, 12:44:28 PM