微かな記憶。
子どもの頃、私を取り巻く世界はとても色鮮やかだった。
視覚のはなし?
ちがう。においの話。
視界に広がる色なんて、当たり前の存在すぎて気にもとめていなかった。
私が夢中になっていたのは、鼻から得た情報から感じる色の世界。
たまにしか感じないが、それはとても色とりどりで、大人には理解してもらえない、鮮やかな世界だった。
外の世界、様々な香りが順番に鼻をくすぐる。
「あ、赤っぽい。これは橙。急に水色がきた!」
それらの色が細い線のように幾重にも重なり、鼻の中で絡んでいく。
とてもおもしろい世界だった。
色を追って、鼻を集中させる。
においのひとつひとつを辿っていく感覚だ。
目には見えない色を追って、私の視界は色とりどりに変化した。
この感覚、常人にはわかるまい。
大雑把ににおいを捉えるようになった今、私にも分からなくなってしまった。
『色とりどり』そんなテーマで思い出した、かすかに残る、私の幼少期の記憶である。
1/8/2023, 4:18:35 PM