堕なの。

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◤秋雨と先輩◢

秋の雨というのは、冷たく刺々しい印象である。今日も今日とて冷たい雨に当てられて帰る私は傘をさしても足先が濡れ、温度が冷えてゆくことを感じた。小雨でこれなのだから、早く帰らなくては行けないことは明らかである。また生理が重くなるな、なんて考えれば憂鬱な気持ちになる。顔をあげれば信号が赤に変わる。とことんついてない日である。

一個前の信号で渡ったのか、先輩が向こうを歩いていた。同じ傘の中には私の親友が収まっている。何とも小さくて可愛らしい彼女は私なんかよりよっぽど先輩の隣が似合っている。二人で身を寄せ合っている姿は羨望と諦めを私に齎した。

いつの間にか土砂降りに変わった雨は私の心に追い討ちをかけるかの如く濡らしていった。涙とも雨ともつかない何かが流れ落ちて、既に濡れきった地面の水溜まりの一部となる。重くなった足を引き摺るようにして家に帰る。

マンションの前に辿り着いた。途端に雨はまた小雨になる。例えば何か、私は悪いことをしたのだろうかと心配になる。余りの運のなさには正直悲しみを通り越して呆れしか回ってこない。

「大丈夫?」

珍しく、良いことが起きた。さっきの今で良いことという私はどうかと思うが、先輩からの心配にはそれほどの価値がある。ニコリと笑えば先輩は心配そうな表情が一層深まった。

ああ、こんな程度で気持ちは軽くなってしまうのだ。今降っている雨が柔らかいかのように錯覚する。先輩がどんなクズでも、色んな女に手を出す黒い噂の絶えない人であったとしても、いいのだ。一時の優しさに愚かにも溺れていればそれでいいと。思ってしまえる程の人なのだ。

「言われたのでしょう?」

あの可愛い親友に。そんな含みを持たせて、目の前の先輩と同じ、計算的な女誑しの笑顔を纏った。


テーマ:柔らかい雨

11/6/2023, 1:28:36 PM