『鳥かご』2023.07.25
ある日、家に帰ると妙に娘がニコニコしていた。妻も同様にニコニコとしている。
これはなにかあるな、と察したが何も知らないふりをしてどうしたのかと聞いた。
すると娘は俺をリビングまで引っ張っていく。エスコート上手なのは、妻の血を引いているからだろうか。
果たしてリビングのテーブルの上には、鳥かごがドンとあった。中には当たり前のように、文鳥らしき鳥が大人しく鎮座している。
あまりにも堂々とした出で立ちをしているので、思わず笑ってしまった。
妻の話を聞くと、買い物の帰りにペットショップを訪れたさい、この妙に貫禄のある文鳥がほぼタダのような値段で売っていたらしい。
それに目を奪われた娘が「欲しい」と言ったので、妻はあっさり買ってきたのだという。
別に文句はない。仕事柄、長期の公演となると、なかなか帰れないこともあるから、寂しくなくてもいいだろう。
「よかったね。大事にするっちゃん」
そういうと、娘は元気よく返事をした。
知らない人間、知らない環境にもかかわらず、文鳥はキリッとしたようにみえる顔で、こちらを見つめてくる。
「名前はあると?」
聞くと、娘はもちろんと頷く。
娘のことだ、ピーちゃんとかブンちゃんとか、そんなかわいい名前を付けている事だろう。いや、この貫禄だ。妻あたりが、部長と名付けているかもしれない。
ワクワクしながら、促すと娘と妻は口を揃えてこう言った。
「ヨツミ!」
いつか、この文鳥が食われないことを願うばかりだ。
7/25/2023, 1:02:10 PM