私が思い出せる一番古い記憶は、保育園の時のことだ。
『○○ちゃん、お父さんがお迎えに来たよ』
保育園の先生の声と、出入り口の辺りで佇んでいる父のシルエット。
そんな記憶があるんだということを母に話すと、母は途端につまらなそうな顔をして、
「お父さんが保育園の迎えに行ったのなんて、二回だけだよ」
と。
聞けば、普段から迎えに行っていたのは母だったそうだ。
なんとなく予想通りではあったが、しかし、私は父が迎えに来た時以外のことは何一つ覚えていなかった。
話しながら少し悲しそうな表情を浮かべている母を見て、余計なこと言っちゃったかな……と私が少しばかり後悔していると、
「あんたの子供は覚えてくれてるといいね」
と。
物悲しさをはらんだ微笑みを向ける母に、私は「うん」と頷いたのだが、
「でも、あんたの子供だしねぇ」
と、悲しげな雰囲気から一転、ワハハと笑い出した母を見た途端、先程までの後悔はすっかり消え失せていたのだった。
7/18/2024, 8:53:28 AM