Una

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小さい頃にお母さんが読んでくれた絵本を今でも覚えている。一人の小さな女の子が誰かのヒーローになりたいと、人助けをしていくお話。あの頃の私はただ、主人公の女の子が大好きで、その絵本を週に一回は必ず寝る前に読んでもらっていたし、自分で読むことも沢山あった。大好きすぎて、保育園にも絵本と一緒に登園し、暇さえあれば一人静かにその絵本の世界にのめり込んだ。
一人暮らしの為に引越し作業をしていた私は、久しぶりに見たその絵本の表紙に、童心を思い出して本を開いた。

_ある所にほまれちゃんという小さな女の子がいました。ほまれちゃんは、「ヒーローになりたい」という夢を持っていました。今日もその夢に近づくために人助けをするみたい。早速ドアを開けて外の世界に飛び出しました。

最初に出会ったのは、重い荷物を持ったおばあちゃん。腰に手を当てて、長い長い階段を眺めています。それに気づいたほまれちゃん。すぐにおばあちゃんの元へ駆け寄ると、「おばあちゃんお荷物貸して!」と言いました。おばあちゃんは少しびっくりした後、「重いけど大丈夫かい?」と言ってほまれちゃんに荷物を渡しました。とっても重かったけど、ほまれちゃんは一度も階段に荷物を下ろさずに、階段を登りきったのです。おばあちゃんからお礼に、ほまれちゃんは飴ちゃんを貰いました。

次に出会ったのは、暗い顔をしたスーツを着た男の人。公園のベンチに座って、大きな溜め息をついているみたい。ほまれちゃんは、急いで男の人の元へ走って「どうかしたの?」と聞きましたが、男の人は何も答えませんでした。ほまれちゃんは元気になあれと思って、男の人にさっき貰った飴ちゃんをあげることにしました。「どうぞ」と男の人に差し出しました。男の人はそれを見て、少し笑いながら「ありがとう」と言い、飴ちゃんを受け取りました。ほまれちゃんは何だかいい事をした気分になりました。ほまれちゃんは男の人から千円札を貰いました。

次に出会ったのは、怪我をしている制服を着た女の子。肩にかけたスクールバックの持ち手を強く握りしめています。ほまれちゃんは「こんにちわ」と挨拶をしました。女の子はほまれちゃんの方を見ましたが、何故か挨拶を返してくれませんでした。ほまれちゃんはさっきの男の人と同じように、貰った千円札を「どうぞ」と差し出しました。女の子は一瞬驚いたあと、嬉しそうに千円札を受け取り、お礼にほまれちゃんはビデオテープを貰いました。

最後に出会ったのは、

_ここで本は途切れ、残った最後のページに飛ぶと「めでたしめでたし」とだけ書かれていて、最後に出会ったのは誰だったのか。本当に登場人物の三人はほまれちゃんに助けられたのか。最後にほまれちゃんは何を貰ったのか。が謎に包まれている。

これは一世を風靡した「千切れ絵本事件」に使用された絵本である。この事件は、この絵本「ほまれちゃん」の最後の前のページが全て千切られているという事件だ。つまり、私だけではなく、この絵本を買った殆どの人がめでたしの前を知らない、ということだ。今でもそれを知る人は存在せず、作者が千切ったのか、第三者なのか、それすらも分からない、未だ謎に包まれている事件なのだ。



_20xx年
「ほまれちゃん 特別版」が発売された。抽選で当たった五人だけが、あの絵本のめでたしの前の現場を目撃できるのだという。ほまれちゃんの行方を知りたい人は、勿論私だけではなく。沢山の人が一斉に応募したという。
私は当たらなかったが、友達が当たり、結末だけを教えてくれるというので話を聞いた。内容は以下の通りだ。


_最後に出会ったのは、今本を読んでいる貴方。ほまれちゃんは前の人に貰ったものを、そのまま次の人に渡せば人助けになることを知っています。ほまれちゃんは貴方にビデオテープを渡します。「これを見たら次のページに進んでね」ほまれちゃんは笑顔で言いました。そして、貴方からどんどん遠ざかっていきます。

早く見ろ。

_そのページに貼られているビデオテープには、
おばあちゃんが階段から転がり落ちている映像。
サラリーマンがロープを首にくくりつけて椅子から飛ぶ映像。
女子高生が校舎の屋上と見られるところから飛び降りる映像。
最後には「次は貴方の番」と小さな女の子の声が入っているという。

めでたしめでたしとは何を意味していたのだろう。
ちなみに、この絵本を書いた作者は書いたあとすぐに死亡。この話をしてくれた私の友人も先日亡くなった。もしかしたら、私も番が回ってきてしまったのかもしれない。

私が死んだら、



次はこの文を今読んでいる貴方の番。

「ほまれちゃん」

10/12/2024, 7:57:05 AM