ガタンゴトン
ガタンゴトン
体に伝わる振動が、これから始まる旅への期待値を否が応でも高めてくれる。
私と先生は課外授業と称し、隣県にある恐竜博物館へと向かっていた。
きっかけは、金曜ロードショーで観た映画。翌日の授業中もずっと興奮状態だった私を見かねて、先生が提案してくれた。
私は恐竜に会えるワクワク感と、大好きな先生との旅行という至福の時間に心躍らせていた。
「先生、実際のヴェロキラプトルは映画のより小さかったって本当ですか?」
「そうらしいね。博物館で確かめたらいいですよ」
「はい、そうします!」
私は先生といられるのが嬉しくて、ついついたくさん話しかけた。先生は穏やかに笑って相手をしてくれた。
博物館は本当に楽しかった。いろいろな生き物の化石が見られたし、学芸員さんが面白い話を聞かせてくれたり、発掘体験をさせてくれたりした。これ以上ないほどの楽しい思い出となった。
はずなのだが。
「……先生、ここは?」
「……終点ですねぇ」
日中はしゃぎ過ぎた私は、帰りの電車の中で眠ってしまったらしい。小学生だし、それくらいは許してほしい。
ところが先生までもつられて寝入ってしまったらしく、私たちは見ず知らずの駅で降りる羽目になった。
たしかに、少しばかり先生を振り回してしまった自覚はある。でもまさか2人して寝過ごすとは。まったくの予想外だ。
「どうやって帰るんですか?」
「バスで、と思ったけど、この辺はもう終わっちゃってるね。仕方ない、高くつくけどタクシー呼びますか」
「お金足りるんですか?」
「心配ないですよ」
先生はそう言ってスマホを耳に当てた。
先生が電話している間、私は蟻の行列でも観察していよう。そう思ってしゃがもうとした時、先生が悲嘆の声をあげた。
「え、1台も無理なんですか?」
『ええ、今日その辺りでアイドルのイベントがあったようで。この時間は予約で埋まってるんです。申し訳ありません』
「そうですか……」
『2時間程したら空くと思いますが、どうされますか?』
「2時間……」
先生は私の顔を見た。
「いえ、大丈夫です。いえいえ、そんな。はい、ありがとうございます。失礼します」
電話を切った先生はふーっと息を吐いた。
「ホテルを探しましょう」
「やったあー!!」
ついに、念願の、先生とお泊り♡
私は人目もはばからずに万歳をした。
テーマ「終点」
8/10/2024, 11:33:51 AM