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▼ 通り雨

朝から、雲を運ぶ風だと感じていた。
空ばかり見ているのも何だと気にしないように机に向き合っていると、窓ガラスに当たる音。
(これは、一気に来るな)
何気無しに窓側に立てば、見知ったバイクが既に大粒にやられている。
直ぐに部屋へ引き返し、インターホンが鳴ったと同時に開錠。
バスタオルを手に玄関先へ急いだ。

「子供じゃねぇんだから、気遣い過ぎだ」
さすがに髪を拭くのは自身に任せ、暖かい珈琲を入れながら自然と溢れる笑みに彼はバツが悪そうにする。
そうして、ここに来る言い訳もぶつぶつと追加してほんのりと耳を赤くした。
「たまたま、今日天気予報見るの忘れたんだ」
「はい」
「こっちに用事もあった」
「はい」
「…最近、ゆっくり会えなかったし」
最後には語尾がとても小さくなってしまったのにも敢えて反応をせず、目の前にカップを置く。
「通り雨ですから、直ぐに止みますよ」
ほんの少しの意地悪を含ませたのが分かったのか、眉間の皺が増えた彼がこちらに手を伸ばすのが見えたけれど、それも想定内。
「今夜泊まる」
「はい」
悔しげな顔もまた愛しくて顔が綻んでしまう私は性格が悪いだろう。
子供のように、もっと激しく降ればいいと思うのも欲が出てしまうから。
雷すら、今は愛しい。 

9/27/2023, 2:18:51 PM