白眼野 りゅー

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「貝殻に耳を当てると波の音が聞こえるって、よく言うよね」

 君はそう笑って、僕の耳にぴとりと貝殻を当てた。ざあと耳の中で海が広がる。


【波音に耳を澄ませてみて】


「……騙されないよ」

 僕はにやりと笑った。

「これは波の音じゃなくて、自分の血流が貝の中で反響してるだけ」
「ぐぬ……」

 少し悔しそうにした君が

「ほ、本当にそうかな? もっとよく耳を澄ませてみなよ。ちゃんと波の音だから」
「冷静に考えて、貝殻から音が出るわけないじゃないか」

 と呆れながらも、真剣な様子の君に根負けして目を閉じ、耳に意識を集中する。どおどおと何かが流れるような音はやっぱり僕の体の音が増幅されているだけで、波の音なんてデマ、誰が最初に流したんだろうと思う。

「好きだよ」
「!?」
「……聞こえた? 波の音」
「君さあ……」

 波の音が激しくなった気がして、慌てて耳から貝殻を離す。最初に貝殻から波音が聞こえると言い出した人も、もしかしたら本当に耳を澄ませてほしかったのは、貝殻に対してでも波音に対してでもなかったのかもしれない。

7/6/2025, 7:00:41 AM