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「私の当たり前は、あなたの当たり前じゃないでしょう? だって、こんなにも思い違いが多いんだから!」
お姫様は言う。
対して、王子様は思う。
(君を愛しているにも関わらず、君を愛するということはどうしてこんなにも困難な事か)
金色の髪に、翠石の瞳。絶世の美貌。
お姫様、アンネローゼの口の利き方は、まるで王子様に八つ当たりするようだった。彼女は、巻き毛を豊かに蓄えた髪を、少し怒りを込めてかきあげた。
話し相手の王子様、ローレンスはそれよりも、まだ白いプラチナブロンドの髪色である。
品行方正で、頼り甲斐があり、人に気を使え、だが、どこか気弱な所がある、王位継承権三位の第三王子。
しかし最近、彼はしたたか彼女に着いていけないと、思い始めている。
それは、アンネローゼがバッドステータス《不運》を生まれつき、スキルとして獲得していたからである。
この不運は、周りに及ぶ不運だ。もちろん彼女にも、及ぶ場合もあるが……。
彼女に毒を盛れば、他のものに当たり、彼女を不幸に陥れようと画作すれば、なぜが別のものが不運になる。
本人は、悪びれる様子は無い。
(しかし、私にだけは、その不運が届かないのだ……)
「ローレンス、とりあえず、キスしてちょうだい」
こうして、恋のやり取りをすると、彼女曰く、不運が遠ざかるのだという。
「はい」
(正直、嫁怖さにうなだれるしかない私……)

7/9/2023, 10:39:17 AM