痕をつけられたわけでも、痛めつけられたわけでもない。けれどふとした拍子にそこがぴりぴりと痺れる。これは証明なのだ。本来であればそこには契約の印を嵌めるのだろう。それができずに燻り、歯痒く思っているのはお互い様だったらしい。わざとらしく指先でそこをなぞり、輪を描いて結びつけてきたのが先日のこと。実体を持たず誰からも見えないくせに、時折こうして自分を縛める。児戯のわりにプラセボ程度には効いていた。きっと向こうも同じように、今頃薬指の違和感に悩まされていることだろう。もっともこっちの場合は焦れて腹が立って噛みついたから、普通に痛みで滅入っているかもしれないが。
(題:二人だけの秘密)
5/4/2024, 5:45:48 AM