ななせ

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今年は予定よりも早く梅雨入りしたせいで、普段はしっかり者の彼女も、今日は傘を忘れてしまったようだ。
家も近いし、僕の傘に入りなよと誘った。彼女のプライドは高いから断られるかと思ったけど、意外にも返事は色良かった。

土砂降りではないけれど、雨足は中々に激しかった。そんな中を、僕と彼女は会話もなく歩いていた。
相合傘も、意識しなければそう色気のあるものでもない。そもそも相合傘をするような仲の人であれば、そう近くとも別段恥ずかしくはない。むしろ助け合いの精神が近いだろう。
雨の日は、彼女の声が聞き取りづらい。傘を持っているから尚のこと、距離も遠くなる。でも、二人で一つの傘を使えば、それも解消される。
二人とも少し濡れてしまうのが難点だけど、そこさえ目を瞑れば結構実用的だ。
そのことを彼女に熱弁し終えて、僕を見る目が冷めていることに気づいた。確かに、これじゃあ君と相合傘したいですと言っているみたいだ。別に恥ずかしがることではないと伝えたかったんだけど、空回りしてしまった。
彼女の次の言葉は何だろう。ちょっと嫌な予感がする。
明日には「あの人は長々と言い訳してまで私と相合傘がしたい」という話がクラスに知れ渡っているか、
「良いスピーチね、まだレポート終わってないんでしょ、それを提出すればいいんじゃないの?」と皮肉を言われて終わりか。出来れば後者の方がマシだけど…。
果たして答えは無言だった。
何も無いなら無いで、何だか気まずくなる。ちらと彼女の方を見ると、髪から少し覗く耳が赤くなっていた。そっぽを向いているせいで、それが余計に目立つ。
きっと、指摘すれば怒るだろうから言わないけれど。この瞬間だけは、相合傘もロマンチックなものになった。


お題『相合傘』

6/19/2024, 10:40:35 PM