フグ田ナマガツオ

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屋根裏部屋で見つけた懐中時計はすっかり古ぼけていて、蓋はガバガバだし、どの針も微動だにしない。
蓋の表面は少し錆びていて、ザラザラとした感触がある。何やら文字が書かれているのは分かるのだが、読み方が分からない。

もうかれこれ10時間以上は調べているのだが、現存する言語に当てはまりそうなものは見あたらない。だとすると、ここに書かれているのはすでに世界から失われた言語で、この文字を読むと金銀財宝を隠した場所が分かり、たちまち大金持ちに……だなんて都合が良すぎる想像だろうか。

10年前に死んだ曽祖父の部屋には、膨大な量の書物があった。単にそれを本と呼ばないのは、そのほとんどが読み手を意識して書かれたものではないからだ。意味のよく分からない一枚絵や、毎日ほとんど同じことしか書かれていない日記、数字や線がびっしり描き込まれた地図。

母はすぐに捨ててしまおうとしていたけれど、僕はこの空間が気に入っていたので、変えないでほしいとお願いした。曽祖父が亡くなったのは僕が5歳の時だったので、もうよく顔も覚えていないが、低いが包み込むように優しい海の底のような不思議な声で、本を読み聞かせてもらった記憶がある。

そういえばあの本、まだこの部屋にあるのかな。朧気な記憶を掘り起こしながら、部屋を探る。たしかあれは少年が海を冒険する話だった。海賊の父を持つ少年は、自分を置いて島を出ていく父親から……。

「懐中時計をもらうんだ」

零れるように口から自然と言葉が出ていた。なんで忘れていたのか不思議に思うほど、物語が鮮明に蘇る。そして、冒険に出た少年はその道中で様々な宝を手にする。しかし、それを利用されることを恐れた少年は、途中の島に宝をすべて置いてきてしまう。その後成長した主人公は、途中の島で女性と出会い。冒険をやめて結婚をする。

その後は……。

「あった」

かきわけた本の隙間に見覚えのある表紙が見えた。崩れないように慎重に引っ張り出して、中身を開く。開くのは最後のページ。

結婚した主人公には娘ができて、最後のページでは子供を抱いている。その子の首の右後ろに、アザがついている。そのアザには見覚えがあった。毎日鏡を見る度に目に入る、自分の姿にそれは含まれているのだ。

鼓動が加速して、息が荒くなる。だとすれば、赤子を抱くこと人物は、主人公が利用していた海図は、その手にある懐中時計は。絵本の中で宝のありかを刻んだものは。

すべてが繋がる感覚があって、目眩がした。ながらく停滞していた時が動き出す。時計の針が動いたような気がした。

2/6/2023, 12:43:02 PM