夏の雲が好きだ。
立体的で、まるで手を伸ばせば触れられそうな夏の雲が。
特に、公園のブランコに乗って、高く高く漕いで、そうして近くに見える夏の雲が大好きだった。
しかし、いくら手を伸ばしても雲に手が届くことは無いと知るには、私たちは子供すぎた。
だからかな。君は雲に手が届くと思ったんだろう?
そう思ったから、飛んでみたんだろう?
おかしな話だ。たとえ手が届いたとて、雲の間をすり抜けて落ちてしまうに決まってるのにな。
それでも、勇気を持って飛んだ、夢見がちで子供な君を、そこで時を止めてしまった君を!私は称えてやるとするよ。
大人の私は、夏の雲より煙草の煙をよく目にするようになったよ。
知ってるか?燻らせた煙草の煙はちゃんと手が届くんだ。夏の雲と違って。
安っぽくて、臭くて、汚れた煙だけど。
あと、あとは、あぁ、意外と、君に教えてやりたいことなんて無いな。
「飛べ。」
頭の中であの日の君の声がする。
うん、分かったよ。君に会いに行くよ。
だから、上手に雲に触れることが出来たら、すり抜けずに君に出会えたら。
君も私を、称えてくれよ。
時間だ。
私の中の私を報うために、あの日の夢を叶えるために、君に会うために!さあ!
飛べ。
7/19/2025, 1:45:45 PM