七風

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突然大粒の雨が降り出した

「天気予報では一日晴れって言ってたのに…」
そんな文句を零しながら急いで雨宿りができる場所を探す
一番最初に目に付いたケーキ屋さんのテントの下に避難する

「寒っ…」
季節は11月、暦上では冬の始まりだ
体に着いた大粒の雨を払い、止むことのなさそうな黒く淀んだ空を睨んだ

「何怖い顔してんの?」
突然。天気にそぐわない明るい声が聞こえた
声のした方を見ると見知った青年が笑顔でこちらを見ている
「なんでお前がここにいるんだよ」
「なんでって、ここ俺の家だし」
「は?家?」
「うん、俺の実家ケーキ屋なの」
そう自慢げに言った彼は言葉を続けた
「んで、君こそなんでここにいんの?」
目の前で大きな音を立てて降る雨とびしょびしょになったこの姿を見れば分かりそうなものだが、察しの悪いこいつは分からないのだろう
「雨宿り、急に降られたから傘とか持ってなくて」
「あー、雨すごいもんね」
彼は一瞬考えるような素振りをして
「じゃあ、うちでケーキ食べてく?」


「…へ?」
唐突な提案に驚いて変な声が出た
「だから、雨やまなそうだし、ここうちだし、雨宿りできるし、ちょうど良くね?」
確かにこいつの言っていることは一理ある
でも、このままここにいてもどうにもならないだろうし
「あー、うん、そうだなお願いするわ」
「よっしゃ!そうと決まれば!」
そう言うと彼は満面の笑みで手を引いて、店に入っていこうとする
「何ケーキがいい?今の時期のおすすめは…」
「ちょっ、ちょっとまって、その前に!」
「その前に?」





「…タオル貸してくれ」
前髪から大きな水滴が繋いでいる手にこぼれ落ちた


お題:『雨に佇む』

8/27/2021, 12:48:56 PM