こんなところで見かけるとは思わなかった。
どうも思わないようになったと思っていたのに、少なからず、動揺した。
あちらは気づいているだろうか。
気づいていたとしても、口を利くつもりはないけれど。
神経を張り巡らせて、目線をさりげなくそらして、素知らぬ顔ですれ違った。
呼び止められなかったので、上手く行ったはずだ。
当たり前だ。
すれ違った私たちの人生は交わることはないのだから。
初めからねじれの位置だった。
私がAを選んだ時は、あちらはBを選ぶ。
どんな時もそんな調子で、意見が一致することはなかなか無かった。
それでも私とあなたが友人だったのは、互いに友人であろうとしたからだ。
共通の友人を持っていた私たちは、無意識のうちに、友人でいたがった。
それが終わったのは、長い学生期間を終えて、私たちが自由になったからだ。
大人になって、もっと仲良くなれるはず。
そう期待したことも確かにあった。
でも私たちは違いすぎた。
意見が合わなすぎた。
どちらから喧嘩になったかはもう覚えていない。
しかし、たった一度の言い合いで、私たちの友人期間は終わった。
後悔はしていない。
むしろ清々した。
しかし、そんな自分の所感に罪悪感を感じる程度には、私にとって、あなたは大切な友人だった。
だから、すれ違いに動揺したのだ。
この、酷い心根を見抜かれはしないかと。
もうどうでも良いはずなのに。
私たちは最初からずっとすれ違っていて、あるべき関係に戻っただけなのだ、と。
断じてしまえる私の薄情さに気づいてほしくなくて。
…あなたの方が薄情だったので、なおさら。
振り向かずに、スピードを落とさずに。
私は前だけを向いて、毅然と歩く。
あなたになんて、最初から気づいていなかったのだ…と。
駅のホームを出る。
秋の日差しが、燦々と降っている。
私は大股で、目的地へ向かった。
10/19/2024, 1:13:33 PM