おさしみ泥棒

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「かわいそうなひとたちだわ」

 月子は憤然と言った。そうとうお怒りなのが見て取れる。私は「まあまあ」なんて毒にも薬にもならないような合いの手を入れた。当然、月子の怒りはおさまらない。

「あの子たちには、お月様の声が聴こえないのよ。こんなにもおしゃべりなのに」

 言いながら、月子はぎゅっと制服のスカートの裾を握りしめた。華奢な両肩は、小さく震えている。怒りで震える人ってほんとにいるんだ、なんて思いつつ、私は月子の背中をぽんぽんと叩いた。

「あの子たち、私のこと嘘つきって言ったの」
「聞いてたよ。ひどいよね」
「ええ。ママとパパと、同じくらいひどいわ。私とっても傷ついた」

 月子の両親は、月子のことを変な子だと思っているらしい。両親に煙たがられているのは私も一緒だから、シンパシーを感じて仲良くなった。こんな時間まで帰らなくても一切心配されないくらいには、私たちは彼らにとってどうでもいい存在なのだ。家にいても窮屈なだけだから、こうして公園のベンチに並んで、いつまでも喋っている。

「理沙は私のこと、信じてくれるよね」

 月子はそう言って、私の手にそっと自身のそれを重ねた。迷わず頷けば、月子は嬉しそうに微笑んだ。
 あいにく、どんなに耳を傾けても、私には月の声は聴こえない。私にも聴こえたら、月子とおんなじ世界を見れるのに。
 そんなことを思っていたら、月子が手をぎゅっと握ってきたから、私はやさしく握り返した。手のひらに伝わる体温があたたかい。
 月明かりの下で目を閉じた。二人ぼっちの夜に、ずっと身を浸していたい。そう思った。

【テーマ:二人ぼっち】

3/22/2026, 3:19:13 AM