透明な涙
「実はつい昨日、所長が『涙』を持って来たんよ
「なんて?」
「正確には『石』なんだけど。涙の代わりに石が溢れてくるっていうひとに出会ったらしくて。そのひとが実際に流した涙を買ったんだってさ」
「ガセだろそれ」
「前に話題になったのは自作自演だったもんねー。そう思うのも無理ない」
「えぇ? 前例あるの……?」
胡散臭いと言いたげに後輩が眉を顰めている。
目から小石が溢るる少女の話だったら聞いたことある人もいるんじゃない? 解決したっていうニュースはいっさい流れてないけど、タネも仕掛けもあるんじゃないかな。しばらく後に、今度はガラスが目から溢るる少女が話題になったけど、こちらは完全に自作自演だ。一応、少女の動機は「お多感な年頃だった」でお察しください。カウンセリングをちゃんと受けたらやらなくなったってことだから。いまが幸せならオッケーです。
「今回もガセじゃん絶対」
疑う後輩の眉の皺が元に戻らない。いやいや、ガセかどうかはどうでもいいんだよ。
「今回のがガセだったとしても所長の曰く付き蒐集が終わるわけじゃないから、真偽はどうでもいいよ」
「いいのか?」
「蒐集しすぎて金欠だからバイト代カット、ってなったらさすがにブチ切れるけど」
「意外とそういうのないよね、所長。いまだけ?」
「永遠に来んな」
信用あるんだかないんだか。本当にいいロクデナシ……間違った、反面教師だよね。
「ふたりも見に来てよ。すっごい綺麗だから」
「お前、綺麗だから『まあいっか』って思ってるだろ」
「石そのものに罪はないじゃん?」
「そうだけどさ。目から石とか普通に怖えよ」
弟の反応を見るに、生き物は好きだけど石は興味ないみたいだね……。後輩は自然の産物だから石も好きらしいけど。
「そんなに綺麗なの?」
「うん。透明な水色だよ。アクアマリンみたいでさ」
「姐さん、それ本当にアクアマリンなんじゃない? アクアマリンの別名、人魚の涙だし」
「んお、涙」
「……所長、人魚から買ったってこと?」
「そうじゃなきゃ、オカルトヲタクの所長も買うって発想にならなくない?」
「「たしかに」」
え、人魚って実在するの?
(いつもの3人シリーズ)
1/16/2025, 1:20:05 PM