yukopi

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会社の休憩時間、何気なくトゥイッターを見ていたら友人の投稿に「いいね」がいつもより多めについていた。
へぇ、と思いながら内容を確認すると、小さな生命たちが保護田さんに纏わりついていた。

(あ、ほごたさん…)
保護田さんは横に伸びる形で横たわっていて、蠢く生命たちはその腹にうずくまる形で並んでいる。
友人の投稿文は『子猫、産まれました!』と書かれていた。


『わぁぁぁ!やったじゃん!』
私は咄嗟に歓喜の声をあげ、同時にいいねを押していた。保護田さん…がんばったのね。
安堵の中、友人にLINEをする。
すると、早くも『今度の週末見に来なよ!』というお誘いが来た。


週末になり、私は友人宅にお邪魔した。
保護田さんは私が唯一、触れる猫だ。
手洗った?触った後も、手を洗ってね。
友人は、気を遣ってそう言ってくれる。


部屋の中に通されると隅に置かれた囲いの中に、保護田さんはいた。トゥイッターに投稿された時の写真と同じ態勢だった。保護田さんは私を見ると、「にゃ」と一声鳴いた。

「保護田さぁん!頑張ったねぇ〜」

私は体に触れずに声だけを掛ける。
母体の周りには小さな保護田さん似のJr.保護田さんがミィ、ミィとしきりに鳴いて存在をアピールしていた。

保護田さんは、薄い虎柄の茶トラ猫だ。
猫のことはよくわからないが、友人曰く、茶トラとは本来オスが生まれる傾向にあるとかで、メスの茶トラは珍しいのだとか。なんとか。


ーー触っても、いいのかぃ?
友人を横に、保護田さんにも語りかけるように言うと、友人からは「いいよぉ」という返事と、保護田さんも気にしない風な顔をしたので、私は、「じゃ、失敬」と一声かけながら、そっと保護田さんの背に触れた。
いくら慣れているからといっても、今は少しだけ過敏になっているかもしれないし、、、と思いつつ、撫でながら背から徐々に喉の位置に持っていく。


保護田さんは、私の手を快く迎え入れてくれた。自らに、頭をスリスリして挨拶してくれる。
(くうぅっ…!)
可愛い奴め…!昔はあんなに小さかった保護田さんも、今や立派なお母さん猫かぁぁ。


保護田さんは名前の通り、保護猫である。
だが、保護田さんとはまた別にちゃんとした名前があるのだが、私が勝手にそう呼んでいるのだ。


***
『…吾輩は、猫である。』
そう言って友人が私の前で両手を突き出した。
…は?
私は怪訝そうに聞き返す。
友人は、ニヤリと笑うと両手で覆った掌の中を私に見せた。

…はっ?!!!え????

『名前はまだ、ない。』

いやいや、何だこれ!ちっさッッ!え、え、え、?
どゆこと?どこで…

『拾った!』

いやいやいや、拾ったって…!
そんなにあっけらんかんと言うなよッッ!!
『飼うっ!』

え、え、え、あんたが????!

***

…と言うことで、今現在に至る。。。


しっかし、時が経つのは本当に早いものだ。
あの時の友人の即決力は、実際に大したものだったのだ。
ずぼらな性格の友人だが、まさかこんな才能があったとはまさに正直、驚き桃の木樹木希林だった。


ーー何?褒めてんの?
嬉しそうに友人は笑った。
うーん、別に褒めてやらないことはないけど…。と私が言うと、「そっかぁ、嬉しいなぁ」と何処までもポジティブシンキングな奴だった。そんな性格が感染った(うつった)のかもしれない。
保護田さんも人懐っこく、たいていのことでは驚かない猫になっていた。おおらかさと毛並みの上品さから、周りのオスネコからの目線もきっと美人に写っていたに違いない。友人曰く、野良猫が庭に、遊びと言う名のナンパしによく来ていたようだ。


『で、肝心のお相手は?』

私は保護田さんの久しぶりの毛並みに癒されながら聞くと、友人は首を傾げた。

うーん、どうだったかなぁ…。
友人は私を見ることなく、語尾を濁らせた。
「…ちょっと?ねぇ、私の目を見て言いなよ。この菩薩ような目を…!」私は友人に詰め寄ったが、うーん…とか、はーん…とか唸って、私の菩薩のような目にも目配せしながら、ずっと返事をはぐらかしていた。


…結局、旦那になる猫は未だ、謎のままだ。

でもその証拠なのか、保護田さんの毛色からでは産まれないであろう黒毛色が1匹、、、今私の左腕に巻きついている。そう、今日の朝、私の左腕に巻きついて離れようとしなかった黒トラJr.である。
この子もまた、唯一私が触れる猫である。


如何してこの黒トラが私の家に来たのか、
如何して私が唯一触れる猫なのか、、、
それは話はまた別の機会に。。




お題: 遠い日の記憶

7/18/2024, 3:06:08 AM