27(ツナ)

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雪原の先へ

記憶が日に日に薄れていく。
完全に消える前に行かなくては、あの場所に。
あの、雪原の先にあった小さくて暖かいあの家。

村の人々はあそこには人ならざるモノが住むと恐れ、誰も近づくことはなかった。
僕は孤児で身寄りもなく街をただ彷徨っていた。
ある吹雪の日、寒さと飢えで僕は雪原の中に倒れた。
死を覚悟したが、意識が戻り目覚めると小さな小屋の中で手当され寝かされていた。
その小屋には1人のおじいさんがいた。
子供の僕とほぼ変わらない背丈で長くて立派な髭を蓄えていた。

「おぉ、人間の少年。目が覚めたようでよかった。だが、まだ弱っているようだ。まだ眠っていなさい。」
目の上からゴツゴツした彼の大きな手に包まれ、僕は静かに目を閉じた。
次に目を覚ますと、村の村長の家で目覚めた。
村はずれの道端に倒れていたらしい。
説明したが、誰もそんな小屋もそんな人物も知らないという。

あれから成長するにつれて、その時の記憶がだんだん薄れていく。
あの時の記憶だけが、誰かに意図的に消されているかのように、僕の記憶から抹消されていく。
覚えているのは雪原の先の小さな小屋、小さな老人だけ。
記憶が完全に消えるまであとどれ程の猶予があるのかもわからない。
僕は雪原に向かって歩き出す。
あの日と同じように吹雪の日、無計画に飛び出した僕はまた寒さと飢えで雪原に倒れた。
暖かな空気を感じてうっすら目を開けると、
僕を手当する小さくて立派な髭を蓄えたあの老人が見えた。
雪原の先へ辿り着いたんだ───

12/8/2025, 11:18:52 AM