わをん

Open App

『別れ際に』

魔王を倒すために組まれたパーティは宿願を果たして魔王を討ち取り、世界を蝕んでいた瘴気は跡形も無く消え去って真の平和が訪れた。仲間たちの心は晴れやかなものであったけれど、魔王を討てと命じた王のおわす城への足取りはみな僅かに重かったように思う。城にたどり着けば長かった旅は終わり、それぞれの生活ヘ帰ることになるからだ。だから転移魔法をわざわざ一つ前の村に設定し、ほんの少しの時間稼ぎのために徒歩で城へと向かっている。
強くなるために日々魔物たちを打ち倒したことや、武器防具を揃えるための金策に走ったこと、新たに覚えた魔法を実戦で使えるようになって大喜びしたことなどの些細な昔話に花が咲いていたが、景色の中に城門が見えてきたときにふとみんな静かになった。
「もう一回最初から冒険したいぐらいだな」
ぽろりとこぼした言葉には各々真反対の意見が返ってきた。
「いや、今回は大冒険過ぎた」
「二度とごめんだわ」
「何回死にかけたと思ってるんですか……!」
人並み外れた勇者はやっぱりちょっとズレてるな、と他3人はわだかまってこちらを見てはひそひそと話し始めた。自分のことは至って普通だと思っているのだけれど、そんなにだろうか。仲間はずれにしょんぼりしていると、3人の忍び笑いが聞こえてから肩に重みがかかった。
「冒険はしばらくこりごりだが、酒と飯ならいつでも付き合うぜ」
「じゃあ私はショッピング。あなた荷物持ちね」
「わ、私は、あなたとならなんでも……!」
城門手前で立ち止まっていた魔王討伐パーティはやがてゆっくりと解散に向けて歩き出す。胸に一抹残る寂しさは寂しさのままに、これから先のことを想えるという輝かしさにそのときようやく気がついた。

9/29/2024, 1:26:56 AM