トントントンツーツーツートントントン
単純な機械音を、映画の中の男は操っていた。
「モールス信号ってやつですね」
「このトンとツーの組み合わせでアルファベットにするんだっけ?日本語でもできるのかな……」
ふとした疑問をつぶやくと彼はふむ、と考えたようだ。
「五十音、濁音、半濁音、拗音合わせて100以上あるのと、アルファベットを流用しても一文字表すのに子音と母音で2つ必要ですからね」
「それ聞いただけで面倒そうってのはわかった……」
彼が何を言ってるか半分もわからなかったが、モールス信号と日本語の相性があまり良くなさそうなのだと感じた。
「一応和文モールス信号もあるそうですよ」
「送信する方も受信する方も大変そう」
モールス信号は光でも表すことがあるらしい。音に頼らないのは便利かもしれないが、チカチカ光ってもおそらく私の頭では理解できないだろう。
「暗号って難しいね」
「まあ戦時中でも使われたものでしょうし、簡単に伝わったら機密事項には使えませんよね」
よいしょ、と言いながら彼は私を膝の上に乗せる。そして、首元に顔を寄せてクンクンと鼻を鳴らした。
「……ワンちゃんみたい」
「伝わりませんか。モールス信号よりずっとわかりやすいと思うのですが」
こんな関係になっても敬語を崩さない彼が自分に向ける信号なんて。
「……わかんないから、言葉で言って」
「……行動を伴ってもいいのなら」
映画の男がその後どうなったのか、私はその後を見られなかったからわからない。
ただ、彼の手が自分より大きいことをその時改めて思い知った。
【信号】
9/6/2025, 1:23:50 PM