作家志望の高校生

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俺は、生まれたときからずっと一人だった。
親の顔は知らない。街の人々には邪険に扱われ、俺の唯一の友人といえば、路地裏で一緒にゴミを漁るカラスやネズミ達だった。
そんな俺の嫌いなものは、冷たい目でこちらを見つめる大人、弱い者からさらに搾取してくる年上の少年たち、そして、冬。
冬はずっとずっと嫌いなのだ。あの、体の末端を凍らせて砕いてしまうような寒さも、少なくなる食料も。年末だとか言って浮かれる街並みさえ腹が立つ。
それは、大人になって財力を得た今も抜けなかった。今も、町中でクリスマスソングが流れると耳を塞ぎたくなる。雪が降り始めると、もう外に出られない。俺は、冬というものに対して、ある種恐怖症のようなものを抱いていた。
冬の寒さは、俺の体に隅々まで染み入ってきて、その血液ごと凍らせてしまう。布団はおろか屋根すら無い裏路地では、一度体が冷え切ってしまえば暖めるのは至難の業だ。子供の頃は、同じく凍える野良猫やカラスと身を寄せ合い、僅かな食料をネズミと分け合って生きていた。
だから、俺の身にはもう隅々まで寒さが染み込み尽くして、心まで冷えてしまった。誰かを助ける、誰かと過ごす。そういった人間的な行動が、極端に苦手になったのだ。
「ねぇってば!聞いてる?」
物思いに耽っていた俺の思考が、喧しい声に引き戻された。現実逃避のように過去に浸っていたのに、また無理矢理引き戻されて、そのきらきらとした、星の爆ぜるような光を宿した瞳に真っ直ぐ射抜かれる。
あまりに無垢で、あまりに無邪気は目は、俺にとって毒にも等しかった。
「……なんだ。」
「寒くない?さっきから顔色悪いからさ。コンポタ買ってきた!」
むに、と頬に温かい缶が押し付けられて、半ば強制的に受け取ってしまった。無言の訴えに負けて口に含むと、とろりとした黄色の液体が、優しい甘さを伴って喉を滑っていった。
「ね、おいしい?元気なさそうで心配なんだよね。冬、嫌い?」
太陽のような瞳に、さりげなく握られた手の温もりに、胃に落ちていく温かさに、俺の中に染み付いた寒さが解けていく。
血色感の無かった指先に、ふわりと桜色が差した。
「……ああ。……大丈夫だ。」
「え、笑った?今笑ったよね!?ちょ、も、もっかい!もっかいやって!今度は撮るから!」
「馬鹿か。」
目の前で騒がしく喋り続ける彼に、また緩みそうになった口元をそっと手で隠した。
あの冬の寒さは、もうどこにもない。

テーマ:寒さが身に染みて

1/12/2026, 7:39:05 AM