「だってさ、難しくない?」
「分かる」
私たちは、麦わら帽子を持っていない。雑貨屋に売られていたそれを見て、そんな会話が始まった。
「普段使いできる人は上級者だなって思っちゃう」
「被るとしたらやっぱり海とか?夏って感じの場所に限定されるよね」
「ねー」
だけど、可愛いな。そう思っているのは彼女も同様なのか、麦わら帽子から目を離さない。かと思えば、麦わら帽子を両手で掴んでそのまま私の頭に被せた。びっくりして思わず、わっと声が出る。
「あ、サイズぴったりだね」
彼女自身も片手でひょいと色違いのそれを頭に被せており鏡を見て「私似合う」と自画自賛していた。
もう、と私は呆れながらも釣られて鏡を見る。
そこには夏があった。
「……」
少しすると彼女は「よし」と言って、今度は私の頭から麦わら帽子を取っていった。そのまま陳列棚に戻すと思ったのに、2つ抱えてレジのある方へ向かうものだから慌てて追いかける。
「え、ちょっと」
「つまり、」
分かったよね?と言わんばかりに偉そうに振り返った彼女は、私の目を捉えてニッと笑う。
「一緒に海に行こ!ってこと」
また歩き出した彼女の機嫌のよさそうな後ろ姿を見て、一瞬呆ける。そんなの私だって。
スタスタと早足で横に並び、彼女を肘で小突く。
ぎゃあ、と笑ったその腕から麦わら帽子を1つ抜き取って、同じ台詞を言ってやった。
/麦わら帽子/
8/11/2023, 11:50:37 AM