夕本(ユウモト)

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神様がいました。
何を見ているのか、何を考えているのか誰も知りません。

神様がいました。
ずっと遠くをご覧になっています。

神様がいました。
そっとため息をつかれたようでした。


サワサワと田植えが始まる前に育った雑草が揺れています。
風向きが変わったようです。
遠くに雨雲が見えました。
どうやら雨になりそうです。


田畑の神々は嬉しそうです。
家の神はそっと家の主に目をやります。

八百万の神々が雨に備えます。
それはまるで祭りのよう。
けれど人の世は静かで静かで。少し寂しいものです。
もう雨を喜び、恐れ、心配して空を見上げる者は減りました。

最早、誰にも求められていない雨。

神様がいました。
雨を降らせなさいました。

人々は煩わしそうに空を見上げます。

神様はそっと目を閉じます。

子供の声が聞こえました。
雨雨フレフレ母さんが。

神様はそっと目を開け、その子に優しく雨を落としました。




夏がくれば、雨は荒々しくなる。
今年もありとあらゆる命が暴雨にのみこまれる。
春に宿り 夏に育ちし 八百万の神々 付喪神 数多の生き物の            命

夏の神よ。どうかもう少し待ってください。
小さな子が純粋に雨を楽しむ時期を。
厳しい冬の季節を乗り切り、疲れた生き物達へ束の間の休息を。
暖かい日差しと優しい慈雨の季節。
この束の間の平和をどうか与えさせ給え。








神様はそっと春の野に立っております。
人々の往来を、数多の生き物の戯れを
静かに。静かに。眺めております。


お題「ところにより雨」

3/25/2024, 5:11:27 AM