未知亜

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ㅤ午前のショーが終わり、裏で着ぐるみの頭を脱いでだらしなく扇風機に懐いてたら名前を呼ばれた。振り向くと法子が立っている。え、なんでここにいんの?
「……ごめん、バイト先まで来ちゃって」
ㅤ白いワンピースには、小さな赤い花が散っている。レトロな昭和デザインが、清楚な雰囲気を醸し出していた。私には逆立ちしたって着こなせない。くそっ、やっぱり可愛い。
「あたしたち、絶賛国交断絶中じゃなかった?ㅤ法子の発案で」
ㅤ出来るだけ冷たく聞こえるように言葉を投げる。嫌な奴だ、私。
「だよね。でも……」
ㅤとにかく、ごめん!
ㅤ白いスカートのすそがひらりと揺れる。赤い花も一緒に踊る。私はただそれを見ていた。謝られるなんて思ってもみなかった。
「なんか、やっぱ、言いすぎたと思って!」
ㅤそういうとこだよ、法子。良くも悪くも真っ直ぐで、腹立たしいけどたまらなく羨ましくもある。
ㅤ傍に置いた着ぐるみの頭を、私は眺めた。星の形をした頭部。スターの王国から来た彼女は、子どもたちの願い事をなんでも叶えてくれるのだ。
ㅤ私はずっとあなただけの星になりたかった。法子が願うことを叶えてあげたかった。ただ、それだけだったんだよね。
ㅤさあ、星に願ってよ。『あなたとは友だちでいたい』って。大丈夫。私はもう二度と、夢を見たりしないから。


『星に願って』

2/10/2025, 1:21:23 PM