『雫』
あなたの頬に、雫が溢れました。
それが涙だと気づくのに、少し時間がかかりました。
泣いているひとを前にして、わたしはいつも言葉を失います。
何かを言わなければという気持ちと、何も言ってはいけないという気持ちが、胸のなかで静かにぶつかり合って、結局わたしはただ、あなたのことを見ていました。
雫は、頬の上をゆっくりと伝いました。
急ぎもせず、止まりもせず。
まるで、長いあいだどこかに留まっていたものが、やっと行き場を見つけたみたいに。
悲しいのか、と聞こうとして、やめました。
悲しいに決まっている。でも、それだけでもないような気がして。
涙というのは、悲しみだけが呼ぶものじゃないと、あなたを見ていて思いました。何か大切なものに、ふいに触れてしまったときにも、人は泣くのだと。
わたしはそっと、あなたの隣に座りました。
何も言わずに。
それがせめてもの、わたしにできることでした。
しばらくして、あなたは小さく息をついて、少しだけ笑いました。
その笑顔が、さっきの雫よりずっと、わたしの胸に沁みました。
4/22/2026, 4:58:40 AM